コンチネンタル・オプの事件簿



題名:コンチネンタル・オプの事件簿
原題:Arson Plus and Other Stories
作者:ダシール・ハメット Dashiell Hammett
訳者:小鷹信光
発行:ハヤカワ文庫HM 1994.05.31 初刷 2003.02.15 2刷
価格:\760

 映画のおかげで重版され、もしかしたら一時的にまた陽の目を浴びるかもしれないハメットの短編用主人公コンチネンタル・オプ。短編はぼくもろくすっぽ読んでいないのでこの機会を利用して手に取る。

 この短編集は小鷹信光編でもあるから、大変気のきいた構成になっていて、読みやすいし、初心者でも物怖じせずに取り組めるだろうと思う。
 冒頭を飾るのは『放火罪および……』目次にもちゃんと<コンチネンタル・オプ登場>と紹介されている。

 続いて連作が二つ。小鷹氏によるとコンチネンタル・オプの重要な作品ということである。

 まずは今回の映画『ノー・グッド・シングズ』の原作になった『ターク通りの家』『銀色の目の女』。ハードボイルドを語るには避けて通ることのできない悪女ものということで、今回の映画も悪女を前面に出したPRを張っているようだ。もっともボブ・ラフェルソン監督の場合『郵便配達は二度ベルを鳴らす』でもジェシカ・ラングのキッチンでの荒っぽいレイプ・シーンから始まる悪女の微笑みがたまらないPR効果を呼んだものだ。

 次なる連作は短編というよりも中編2作を合わせて長編で通るくらいに長いが、とにかく本書のハイライトでもある『血の報酬』。150人ほどのワルをアメリカ中から集めて町の一角を団体で襲撃し、銀行を二つ空っぽにするという、これ以上ないほどの活劇に始まる。あとは裏切りに裏切りが重なり、真犯人は玉ねぎの皮を何枚も剥かなければわからないと言ったところ。このスケールなら、本来もっとちゃんとした長編になってもおかしくないところ。ハメットが蘇って、高村薫のように完全リメイクを施してくれないものかと思ってしまう。探偵のラストの一言に味がある。

 続いて『ジェフリー・メインの死』は他の短編集でもよく扱われているもの。

 ラストはやはり退場編。これをもってオプは登場しなくなったという『死の会社』。ちゃんとオプのエッセンスを一冊でダイジェスト風に味わえる構成になっているのだ。

 1920年代の作品たちに今お初でお目にかかって、80年ほどの時のカーテンを透かし、なお楽しめてしまうハメット。味のあるセリフや、オプのほとんどいい加減とも思われる強引なかきまわし捜査。悪党の個性に、悪女の美しさ。日本がひたすら軍靴の響きを高めている間に、アメリカではこんなお楽しみな娯楽が印刷工場を忙しくさせていたのだと思うと、禁酒法時代とは言え、文化は文化であったわけで、そのあたりのお国柄は何とも羨ましい限りである。

(2003.03.06)
最終更新:2007年07月11日 21:30