赤い収穫 (「血の収穫」)




題名:赤い収穫
原題:RED HARVEST ,1929
作者:DASHIELL HAMMETT
訳者:小鷹信光
発行:ハヤカワ文庫HM 1989.9.15 初刷
価格:\460(本体\447)



 ハードボイルドの古典。いい作品というのは読者を決して置いてけぼりにはしないらしい。

 『血の収穫』ではない小鷹訳の『赤い収穫』。古典的な名作なので、驚くほどの翻訳が出ているらしいが、今は年間1作ずつの小鷹ハメットがハヤカワHMで出されているので、迷わずこれを読むことにする。

 まずはタイトルが粋である。欲望と憎悪とで荒れた街に一人のオプが登場する。彼は血で血を洗う抗争を演出して見せる。そうして共倒れを画策したオプは、まさに赤き血の収穫を得た後に街を去ってゆく。「街の浄化」。このテーマがこの後どれだけ使われたことであろうか? 近いところでは「80年代の『赤い収穫』」「ハメットへのオマージュ」と帯に謳ったウィリアム・ディールの『フーリガン』があった。ハードボイルドの短期会議室でKYOUTAさんが言っているように黒沢映画『用心棒』も、船戸与一の『山猫の夏』も同じパターンを軸にしている。

 何しろとても旧い作品なのだが、内容は次々と積み上げられる死体の山、町中での銃撃と、現代バイオレンス小説真っ青のストーリー。これをオプの一人称で非情にドライに淡々と描いている。この種の文体、またこの種の視線が後のハードボイルド小説の原形、となっていったことがうかがえて興味は尽きない。いや、むしろ後の作家たちの方が視点を個人に近づけているのかもしれない。ハメットの視点の非情さは唯一無二のそれであるかもしれない。それほどにも言葉少なな小説、といった印象を受けた。

 ハードボイルドのスタート地点をチェックしたい方には、やはり必読と申し上げたい。ぼくは続けてハメットを読むことにします。

(1991.11.10)
最終更新:2007年07月11日 21:19