凍れる森




題名:凍れる森
原題:Winter Kill (2003)
作者:C・J・ボックス C.J.Box
訳者:野口百合子
発行:講談社文庫 2005.10.15 初版
価格:\781




 素晴らしい! の一言に尽きる一篇。たとえ『このミス』でも『文春』でも上位にランクしなくったって、この作家、このシリーズのことは、口コミでできる限り多くの人に伝えてゆきたい。池上冬樹氏が巻末で書いているように、口コミでこの作家の人気は静かに伝わり、前作『沈黙の森』は順調に版を重ねていると聞く。

 本書の帯にはこうある。

「心を揺さぶる現代のウエスタン!」

 その通りだと思う。『沈黙の森』で見せた、森林管理官一家の物語は、本書でも健在で、美しくも厳しいワイオミングの山中に息づく、主人公ジョー・ビケットの日々と、その可憐な娘たちの心の物語はいつだって、サブ・ストーリーなのにメインである犯罪ストーリーを熱く凌いでゆく。

 それほどの存在感を持った幼い少女らの描写が、大自然の四季とあいまって、独特のスケール感をもった物語を紡ぎ出す。

 国の中枢がこうした辺鄙な場所にもたらす陰謀・謀略・悪意が実に醜く、むごたらしいものに見えてくる。透き通った森林管理官の眼差しを通して、それはさらに怒りを催させる。凍えるほどの冬の寒気は、人間の邪心のもたらす血の冷たさにだけは敵わない。そうした邪悪が、犠牲者を欲し、森を血で汚す。

 そして物語は、残酷なまでにビケット一家を運命の坩堝に放り込んでゆく。前作の感想で書いたように、職業人としての主人公が真の怒りに目覚め正義の鉄槌を振るうに至る物語は、まるでディック・フランシスのそれのようである。フランシスが持っていた過酷さまでをも、この作品は持ち合わせている。読者として情感を揺さぶられ、怒りに震える。

 小説を読ませる最大の力が「共感」と呼ばれるものであるのなら、このシリーズは、あの競馬シリーズのように共感によって突き動かされる読者の側の試練ですらあり得る。

 物語の一家の生活に根ざした悲しみがわかる。いたいけな少女たちの心に穿たれる大きな悲しみの一滴が、痛いほどにわかる。だからこそ、森に芽吹く春の新緑が待ち遠しくなる。愛おしささえ感じられるほどに、愛着を覚えるこのシリーズ。第二作と思われたものは、第三作であるらしい。既に本国では六作までが描かれているらしい。

 実に残念なのは、二作目を本書の後に読むことになることの惨たらしさだ。本書を読めば、たいていの読者は版元への怒りに目覚めることになるかもしれない。作者のせっかくの仕事をある意味台無しにする、無神経な出版会社のやらかした所業であるから、その事実だけはここに付記しておきたい。

(2005.12.04)