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殺人鬼オーストゥンに帰る




題名:殺人鬼オーストゥンに帰る
原題:The Devil Went Down To Austin (2001)
作者:リック・リオーダン Rick Riordan
訳者:伏見威蕃
発行:小学館文庫 2006.07.01 初刷
価格:\800



 テキサスを舞台にしたウエスタン・ハードボイルド。あるいはハードボイルド・ウェスタンでもいい。ジェイムズ・クラムリーやサム・ペキンパーが好んで止まない土地を、そのまま現在に持ってきて、巨匠たちの魂を受け継いだハードボイルド・シリーズを描くとすれば、こうなるという見本のようなシリーズである。

 若き私立探偵でありながら、大学で英文学の非常勤講師も勤める。フィリップ・マーローと競り合わせたいくらいのへらず口の大家でありながら、カンフーの使い手でもある。優しげな表情の内側で、向こう気だけは誰にも負けないトレス・ナバーに引きずられ、全く外れのないシリーズも、早や第四作。

 読むごとにシリーズ・ベスト作品を更新してしまうあたりが、驚きである。常に最新の作品が前作を凌駕してゆく。とどまるところを知らずに上昇気流に乗ってゆく、書き手の技。何と言っても進化してゆくシリーズ・キャラクターたちの、それは魅力で支えられてもいる。

 本書では、トレスの兄貴……若い時分、列車に飛び乗り損ねて両脚を轢断した男。天才プログラマーとしての成功者、フラワーチルドレンであり続け、誰にも決して妥協しない自由奔放で、とても扱いがたい障害者……が殺人事件の容疑者となる。わからず屋で非協力的なこの兄から素直な協力を得られぬままに、弟は兄の巻き込まれた事件に潜む悪意の深さに怒りを滾らせてゆく。

 トレスの本作での仮の住まいは、何と、荒野のど真ん中にNASAの巨大パラボラ・アンテナを伏せただけの家である。このイメージだけでも十分に映画化して欲しくなるくらいだが、作中にオフビートなテンポをちりばめる奇妙なEメールや、湖の底の潜水シーン、艇庫での格闘シーン、ヒッピーバンドのライブ・コンサートに集まるヘルス・エンジェルスとのやりとり等々、もし映像化するならハイライトとなるシーンは山ほどある。

 殺人鬼と思われるEメールの送り主の正体が最後まで謎で、あり、その過去を手繰り寄せる旅が非情に薄気味悪いところなのだが、ある意味でそこが本書の重要な面白さとなっている。

 だが、何よりもこのシリーズは、トレス・ナバーのスタイル、彼が探し出し、感じるもの、それを支える周囲の個性的な仲間たち、大自然の優雅さ、デリケートな恋のやりとりなど、人間と自然の紡ぎだす、生きることのタフさ、愚かしさ、矛盾、宿命、そうした機微をデリケートに拾い上げ丁寧に語ってゆく文脈のタッチこそが、リック・リオーダンという文章のマジシャンの醍醐味であろう。

 シンプル過ぎず、複雑すぎず。現代のウェスタンであり、荒野のハードボイルドたる所以である。

 それともう一つ、忘れてならないことだが、このシリーズは会話文がなんとも味わい深く秀逸なのである。会話の妙技に乗せられる作家ということでいうなら、ロス・トーマスに比肩するところがあると思う。タフでハードで、それでいて面白おかしく世間を笑い飛ばしてしまう洒脱で粋のよい会話。主張を込めるときには獣たちの吼え声のようにも緊張を感じさせる会話のやりとりは、そのまますべてがある種のゲームであり、決闘シーンであるように見えてくる。

 新しくも、どことなしに古臭い雰囲気を持ったアナログなシリーズだ。一筋縄で行かない仕掛けに満ちたこの作品たちが、より多くの人に読まれることを望んで止まない。

(2006.07.17)