ビッグ・レッド・テキーラ




題名:ビッグ・レッド・テキーラ
原題:Big Red Tequila (1997)
作者:リック・リオーダン Rick Riordan
訳者:伏見威蕃
発行:小学館 2002.12.20 初版
価格:\1,810



 『ホンキートンク・ガール』に同じくテキサス南部の町サンアントニオを舞台にした素人探偵トレス・ナヴァーのデビュー作にして、アンソニー賞、シェイマス賞とダブル受賞の、あちらではそこそこ評価を受けているシリーズである。未訳の第三作からはハードカバーに昇格する。

 エドガー賞を射止めた第二作よりも、ぼくとしては第一作の本書をお薦めする。なぜならトレス・ナヴァーの自分探しの旅としては、12年前保安官であった父が殺された事件を追跡し始める物語のほうが相応しいからである。父が目の前で殺されたにも関わらず、トレスは現実に目を背けて、サンフランシスコに逃避した。本シリーズは彼が郷里の田舎町に帰ってきたときから始まる事件である。

 西部の田舎の私立探偵トレスの脇を固める配役陣が、何と言っても素晴らしい。第二作だけ読んでいる時点では何とも馴染みがない部分があって、作品世界との距離感がどうしても否めなかたったのだが、やはりシリーズは最初から順番に読むべきであるな、あの脇役、この脇役と、チョイ役まで含めて人間たちの存在感と言ったら素晴らしい。

 始終テキーラをがぶ飲みして呑んだくれている主人公と、イカした車たち。ネジの取れたような脇役たちとに固められて、ジェイムズ・クラムリーに通じるところがたっぷり感じられる。クラムリーと違う点は、主人公がこの、英語とスペイン語がちゃんぽんである国境付近の土地に搦め取られているところかもしれない。見方によれば、メキシコ文化が流れ込んできていて、アメリカの中枢からは見捨てられたような場所であるサンアントニオ自体が、シリーズの主人公であると言えるのかもしれない。

 二十歳は若く見えるトレスの母は、トレスの先輩たちを取っかえひっかえ愛人にして、青春を謳歌し、若い頃に汽車に飛び乗ろうとして失敗し両足を切断した兄は、コンピュータの天才だ。シスコ時代の雇い主であり彼女であったアイラという東洋系アメリカ女性の魅力や、質屋を経営していつつ暴力ごとの大好きな、まるでスペンサーにとってのホークみたいな存在ラルフ・アルゲーリョ。他にもレギュラー陣の豊かさと言ったら、多過ぎてわからなくなるくらいだ。

 やんわりと澱んだ時間と、摂氏40度を超える熱風の中を、こってりと煮込んだスープのような密度の中で流れる物語。悪党たちと、悪党の周りで葛藤する者たちと、増えてゆく死体。一人称ハードボイルドの直系の文体によるテキサス南西部の空気を、いやになるほどじっくりと呼吸することができる作品である。

(2004.04.11)