消えた少年




作者:東 直己
発行:ハヤカワ文庫JA 1998.6.15 初刷
価格:\700

 今からたったの4年前の作品。もともとがこのススキノ探偵シリーズは、今から少し前の時代に遡ったところの物語であり、シリーズであるから、4年前に文庫化(つまりハードカバーではさらに遡る)この作品が取り立てて旧いようには見えて来ない。

 しかしこのヒーローはたまらなく旧い。旧いことにこだわるヒーローでありながらどうにもちゃらんぽらんであり、どうにもいい加減でおおざっぱで、それより何より酒飲みである。作者の等身大の主人公であるススキノ探偵<俺>は、古臭い街であるススキノをゆく。

 ぼくは札幌に住み、何かあるとススキノに繰り出すけれども、そこは歌舞伎町のように毒々しい繁華街ではなく、昼間の国道36号線の名残のままに生活の延長の空間であり、ただただ小さな店がひしめき合う平和の中の一地帯だ。そこを回遊し、食えないぎりぎりの生活と自由とを謳歌し、家庭内離婚のさなかで、子どもたちを育て、毎夜酒を呑み続ける作家は、もっと自由で子どもも妻もなく、仕事もさしてない探偵というアンチヒーローを作り上げた。

 そして卑しい街をゆく探偵は、本書では驚いたことに恋をする。しかも前作できちんと一瞬だけ登場するある女性に。ということは前作を書いた時点でこの物語の構想は既に出来上がっていたのか? このシリーズはちゃらんぽらんで相当に自由度の高い探偵シリーズに見えていて、実は緻密に計算された作家の手の内なのか?

 そんな楽しみも味わいながら、少年はいつ消えるのか? と思うくらいになかなか消えない少年と、やがて消えてしまった少年を探す主人公にいつか同化している自分に気づき、やがて切ない恋にもだえるヒーローと同様にこの地味目なヒロインにいつか惚れてゆく。相当に不思議な魅力を持った小説だ。そして十分に味わえるミステリー&ハードボイルド。国産作家のなかでも譲歩を知らない北国の一人がここにいるのだ。このシリーズは絶対に全作読むべし。後にまだまだ楽しみが待っていること請け合います。