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雷鳴



題名:雷鳴
作者:梁石日
発行:徳間文庫 1998.10.15 初刷
価格:\495

 『血と骨』が梁石日の父の生涯の物語だとすると、本書『雷鳴』は母の物語である。梁石日の両者に向けられる愛情の激しい差というものが、この二作品を読むことでよく理解できると思う。

 『血と骨』と同じ時代というのではなく、日本へ渡る前、済州島で青春を迎える母の娘の時代の物語。奇麗な海と、神話的な生活。ここを荒らし始める日本人の跳梁。島特有の不合理な慣習の犠牲になる母と、陸地からの差別。日本人の手先となって同胞を裏切る者。島の貧弱な農業。不穏な時代。自然の猛威。まさに雷鳴が轟く空に向けてひたむきにどこまでも生きようとする少女の、読みごたえのある梁石日らしい力作。

 『夜を賭けて』『血と骨』に比べとても薄いが、掌編とはとても呼べない。行間に滲む梁石日の思いが、そのままずしりと響いてくる気がする。日本人の知らない世界。半島とはまた違う朝鮮の文化。海と空の間に巻き起こる人間の愚かさのドラマ。タフな少女たちのドラマである。

 しかしせっかくこの物語を終えても『血と骨』や『夜を賭けて』が後に待っているのかと思うと、この時代の朝鮮人たちの苦しみの歴史が思いやられる。庶民レベルで日本の責めをこれほど負い続けてきた梁石日の親たちの時代。ぼくらの親たちの時代はそれはまた別の苦痛の歴史であろうが、やはり多くの血と謀略の上に昭和日本は成り立ったのだと、改めて思い起こさせられる。ぼくらの足元の物語なのだと……。

(1998.11.26)