ベイビィ・キャット-フェイス




題名:ベイビィ・キャット-フェイス
原題:Baby Cat-Face (1995)
作者:Barry Gifford
訳者:真先義博
発行:文春文庫 2001.4.10 初版
価格:\590



 「南部の夜」三部作の完結編。と言ってもそれぞれにつながりがあるとは言え、何かが完結したとはとても思えないけれど。主人公がどんどん入れ代わるストーリー。

 親が死ねばその息子や娘の物語へ。あるいは主人公が死ねばバスに乗り合わせた女の子の物語へ。あるいは酒場でカウンターごしに居合わせた男の方の物語へ。物語は無限リンク的に語り継がれ、ときにはどこか昔に関係のある人々が、そうと知らずにその子孫同士がある場所で行き違うこともある。

 そういう永い永い歴史をユーモアとバイオレンスを交互に出し入れしながら積み上げてゆく。奇怪なレゴ・ブロックのようなショート・ストーリーたち。深南部を俯瞰することは決してなく、いつも特定の人物に焦点を置いて、個人史のサイドから重ねてゆく世界描写。

 本書に登場する主人公ベイビィは全体の三分の二くらいを受け持つだろうか。その後、彼女の息子が生まれたかと思うと、次なる章ではいきなり成人した彼がムショに入れられている、という具合。瞬く間もないハイ・テンポ。数え切れない理不尽な死体と、星の数ほどありそうないかがわしい宗教団体は、バイオレンスに満ちた世界に必要不可欠なのだとでもいうように。

 本書では若きティーンエイジャーとしてのセイラーとルーラがベイビィに関わってくのだけれど、これは『ワイルド・アット・ハート』の主役たち(?)。という具合にデイヴィッド・リンチ作品ともメディアを超えて関わっているあたり、本シリーズの美味しさといったところだろうか。

 とは言え、前ニ作の勢いは最終作ではやや失速しかけているようにも見える。ベイビィの身に起こる霊的体験や宇宙的奇跡というあたりでは、作品のエンジンがかなりイカレてきたかに見える。飛ばしすぎて寿命を迎えたポンコツ車がエンストしたみたいな終わり方だった。

(2003.03.16)