アライズ・アンド・ウォーク




題名:アライズ・アンド・ウォーク
原題:Arise And Walk (1994)
作者:Barry Gifford
訳者:真先義博
発行:文春文庫 2001.2.10 初版
価格:\571



 ギフォードのディープ・サウス三部作のうち二冊目。前作『ナイト・ピープル』を引き継ぐ人物は若干名出てくるが、例によって例による無造作な扱い方は、あまりにも皮肉たっぷりのダークぶり。無常観に満ちた混沌のなかへとすべてが叩き込まれてゆく。

 ある程度、地理的に絞られた場所に展開する多くのエピソードをストロボのように連写してみせる構成については前作そのまま。厳密には、一冊ごとにまとまった話ではありながら、登場人物が再登場するなど、互いに繋がりの深い関係にあるために、やはり三作とも一気に、しかも順番に読んでしまうのがベストかと思われる。

 あいかわらずぶっとんでしまうような展開は期待通り。繋がりのない人物や、開拓のころの時代など、およそ断裂しかけたようなエピソードで主たるストーリー展開をサンドイッチして、一気に何重もの人物の決着を見るような絵の具をぶちまけたカンバスのごとくカラフルなクライマックス。そこであふれ出す黒い笑いは、本シリーズの最大のみどころ。

 薄手の一冊なのに、多くの登場人物のそれぞれの一生分がいつのまにか語られ尽くしている充実感。つぼを心得た語りというのはこういう本のことを言うのだろう。

 短編は難しいというけれど、その難しい短編を重ねて積み上げてゆく世界描写というのはさらに表現技術が要求されるはず。しかしこれらのハードルを難なく超えて、ギフォードは大変魅力的な世界が罹患してしまった多くの病気について念入りに語ってゆく。

 おかまのコンビ。人種差別主義者。手錠のままの脱獄に影響された白人と黒人の脱獄囚。女予言者。黒人人権リーダー。二重暗殺。転覆事故。処刑。フェミニスト。暗黒教会。レイプ事件。兄弟殺し。レズ。その他もろもろ。

 ディープサウスの高温多湿に当てられてすっかり中毒になった感じの読後感。この疾走感覚を完璧に保ったまま三作目へ移ることにしよう。

(2003.03.14)
最終更新:2007年07月10日 23:17