ナイト・ピープル




題名:ナイト・ピープル
原題:Night People (1992)
作者:Barry Gifford
訳者:真先義博
発行:文春文庫 2000.12.10 初版
価格:\600



 200ページ弱と薄いのをいいことにさっと読んでしまおうと思ったのだけれど、これは良い意味でブレーキがかかる作品。薄くても読み応えがあるというやつ。

 なぜかというと、まず2-5ページ程度の掌編の蓄積が基本として、これらをもう少し大きめの括弧で括り短編に誂えたものを4編。この4編が全部集まるとそれなりの長編になってしまい、おまけに他に続編が2作あって3部作形式となっているようで、これらは多く人物やストーリーが関連し合い、重なり合う。つまりギフォード・ワールドを形作っているわけだ。

 登場人物は多彩だが、それぞれの短編ごとにある種の規範として、主人公らしき存在が定められている。副主人公らしきものが、次の短編で主人公に入れ代わったりすることもあるが、誰もが殺されたり、逮捕されたり、事故にでくわしたりと、いろいろなかたちで破滅に向かって突っ走ってしまうので、長く主役の座を張ってゆくことができないのだ。それだけギフォード・ワールドは過激きわまりなく、血と暴力に満ちている。

 警察と犯罪者の対立のみならず、男女の性差、中絶の是非での対立、さらに信仰対立、近親相姦、誘拐、偶然の銃撃、多くの対立と葛藤とひずみがこの世界をねじくれさせてゆく。ねじれは、一つ一つのエピソードや、登場人物の独白と、実にさまざまな形を取って表現される。このあたりが本書の読みどころであり、手応えである。

 最近、アメリカ深南部の作品に接する機会が多く、どれをとっても文明と一線を画し独自の歴史を刻む一家・一族が登場してくる。日本でいう山窩のイメージなのだが、彼らと、未開の広大な湿原と人種問題というイメージは、南部の暗黒小説独特の背景になっているように思う。どろりとした感触のつきまとう煮えくり返ったごった煮スープのようなイメージが。

(2003.03.10)