愛は、むずかしい




作者:花村萬月
発行:角川書店 2006.02.28 初版
価格:\1,400

 花村萬月が『夕刊フジ』に連載していた曰くありげなエッセイを纏めたものである。曰くありげというのは、何しろ、女そのものをテーマにして、シモの話題あれこれに関して萬月が、豊富な自己体験に基づき(?)自信たっぷりの女性学を披露してみせる本であるから。

 第一章「愛とヒモ」では、男がヒモになるというある種特異な状況を分析する。ヒモの定義、ヒモになりやすい男たちのパターンなどなど。

 第二章「売る女、買う女」では風俗最前線の女たちの実態、そして男の側から女を買う論理とは何かを改めて分析。結婚は売春の一つの形で、女は皆快感を売り物にする売春婦で、男は皆金でそれを買い取る客であると豪語する、ある意味とても危険な論理。

 第三章「男の躯、女の躯」ではまさに身体の形や生理などに焦点を当てては、人間の限界や悲喜劇の根源に迫る。

 いわば、一冊全部が毒そのものなのである。

 タブーと言われ、秘め事であるはずの、人間の影の部分を語らせて、この作家の右に出るものはなかなかいない。一つには、この作家が、負うものを持たない風来坊みたいな存在であるせいもある。芥川賞受賞作家という括弧とした勲章を懐に忍ばせながらも、既成の枠に収まらないこの男だからこそ、生々しい人生の襞々に分け入って、生臭い真実の内臓部分を俎板に乗せてしまう。

 研ぎ澄まされた包丁で解体されてゆくのは、男や女の悲喜劇を生む最古の部分だ。作家は苦笑交じりにぼくらに対しこれらの具材を料理してみせる。その味自体はスムースに喉を通るものではないと思う。しかし、誰もが一度はどこかで食した覚えのある、それは何ものかでもある。

 軽妙と慇懃が混じった比較的硬質な文章で綴られる猥雑な題材たち。不思議な奥行きを持った、この作家としては珍しく統一感の見られる雑文集一冊なのである。

(2006/04/30)