密猟者たち




題名:密猟者たち
原題:Porchers (1999)
作者:トム・フランクリン Tom Franklin
訳者:伏見威蕃
発行:創元コンテンポラリ 2003.06.13 初版
価格:\660



 アメリカ小説ってたいていこんなもんだよな、と今まで翻訳小説で慣れ親しんでいた方に是非とも紹介したい本がこれ。少なくともぼくはこういう作品を読むと、現代アメリカ小説という世界の懐の深さを改めて思い知らされるからだ。アメリカ小説を、いや、アメリカという国をでもいい、知った風な顔をした通(つう)という奴に出くわしたなら、ぼくはその人間の傲慢さに対しこの作品をぶつけてやりたい。

 それがこの本の価値であると思う。思いもかけないアメリカがあって、アメリカがヨーロッパではなくアメリカで在り続けたその存在の根本を考えさせられるようなある種、力を蓄えた作品集として、恥じるところのない魅力、否、説得力を備えた作品集だとぼくは思う。

 不思議なのは何故このどこからどう見ても純文学のジャンルに入るような作家の短編がMWA最優秀短編に選ばれたのか? さらに言えばオットー・ペンズラー編になるところの"The Best American Mystery Stories 1999"に選ばれたのか? (ちなみこの本の邦訳版について、ぼくは<O・ペンズラー&E・マクベイン編『アメリカミステリ傑作選 2001』>というタイトルで紹介している。しかしその翻訳版には本作品は収納されていない。今思えば東京創元社との版権の問題ではないだろうか)

 この作品集の掉尾を飾る『密猟者たち』が想起させる世界はなんといってもジョー・R・ランズデールの『ボトムズ』だろう。『ボトムズ』が気に入った読者には是非、フランクリンの『密猟者たち』も読んでいただきたい。『ボトムズ』がエンターテインメントとしての王者であるならば、こちらはボトムズの原風景を描いたもう一人の若手作家フランクリンによる同じ風土、同じ原風景、同じ経済のもとに描かれたもっとサービス性のない物語だ。しかし、商業性の代わりに凄味がある。どちらもどちらの味わいだ。

 今あるアメリカの文明を崩壊させるほどの圧倒的なプリミティブな力でもう一つの文明を現出させているのが、近年日本語化され紹介されているアメリカ深南部の魅力だ。映画『脱出』における山窩たちの物語は、彼らがアングロサクソンの白人であるにも関わらず、ターザンのような自給自足の縄文的狩猟生活を強いられている不可思議で不自然な現実を突きつけるという意味である意味衝撃的であった。

 この『密猟者たち』に出てくる狩猟文化は、レトリックでもなんでもなく、真に生き物を殺生し食う文化である。そこには日本のマタギなどに見られる信仰も歴史もなく、突然変異的に生まれ、育ってゆく、人間の裸の原風景があり、生々しい食うための人生がある。そうした原初的な辺境の描写がいとも乾いたタッチで描かれるとき、海を隔てたぼくにも心臓を打ち据えるような衝撃は確実にあり、それがこたえる。文章表現、小説というかたちを借りた表現能力の限りなさを如実に感じる。

 圧倒的な自然界。これはアメリカの小説なのか? そう、これぞアメリカと言い切りたい。なぜならこの本により、アメリカの選択している様々なことに説明がつくような気がするからだ。それこそ錯覚なのかもしれないけれど、とにかくここまでは知らねば理解できないことがアメリカそのものには数多くあると、そう思ってしまう。

(2003.10.13)