血と骨






題名:血と骨
作者:梁石日
発行:幻冬舎 1998.02.10 初版
価格:\2,000

 今の自分に比べて、自分の親父の世代というのは粗暴だった。世代と言って悪ければ、少なくとも自分の父親は自分よりもずっと遥かに粗暴で後先を考えなかった。それが生活の余裕のなさがもたらしたものなのか、今よりずっと少ない情報という手狭な環境がもたらしたものなのか、ちょっとわからないけれども、いろいろな要因をひと括りにして「時代」と呼んでしまうべきなのかもしれない。

 さて、ぼくの父親の時代よりさらに遡った梁石日の父親の生涯、彼は徹底的に父親をを書いたのだと思う。これ以上ないと思われるほど徹底的に、無慈悲なまでに。途方もなくエネルギーの横溢した作品を。

 作家的宿命というものがあるならば、エディプス・コンプレックスにも似た父への訣別の碑がこの作品であり、梁石日のライフワークであったかもしれない。小説などというあざとい手段にさしてこだわりもせずに彼は好きなように思う存分書いたように思う。父の存在を認めようともしない子供がこれでもかと思うほどの存在として父を書ききった自己矛盾が、この作家的衝動であったかもしれない。

 それにしてもジャンルもスタイルも奔放で、その割にぐいぐいと引き込まれるこの作品の引力はなんだろう。人の存在の暗く深い部分をここまで書き切れる作家が、この世の中にいったい何人いるだろうか? これは娯楽小説ではないとは思う。時間の流れに秩序はなく、たゆたい、淀んでは疾走する。梁石日の心の中の戦後史であり、父との葛藤の物語であると思う。それなのに何がこれほど読ませるんだろう。

 人間の闇の奥、虚無の大きさ、破壊的なまでの自我の強さと最悪の孤独。様々な意味で辺境に立った小説……と言えるからなのだろうか。

(1998.07.27)