夜の河を渡れ






題名:夜の河を渡れ
作者:梁石日
発行:新潮文庫 1999.8.1 初刷 (1990.11 初版)
価格:\438

 最近の作品『睡魔』でも、二人の主人公が新手の金儲けに手を出しては挫折し、また懲りずに次の手を考えるという、なんだか非常に刹那的な生き様が窺えたのだけれど、その原形と言えるのがこの作品。

 二人のアウトロー青年が、金を稼いでは夜の街ですべてを使い果たし、そればかりかあまりのマイペースな日々の続く中、借金地獄も苦にせず、次なる商売でのでかい稼ぎに賭けてゆくという、何とも不思議なたくましさと刹那主義をとデカダンスを発揮する。

 新宿歌舞伎町界隈の猥雑があまりにも似合う彼らの生態は、不格好でありながらシンプル。夢とか人生の目的とかいった美しさになびくロマンなどさらさらない。とことんリアリスムに徹した闘いっぷりが果てしなく続く。

 眼の前の欲望のために貪欲に強敵に挑み、孤立してもなおあくまでエネルギッシュ。空しいと言えばあまりにも空しい毎日の中で、何故か梁石日の小説に共通する「腐れ縁」の論理。友情というほど青くなく、利用し合っているうちに互い抜きでは考えられなくなってゆくチームワーク。

 不思議な人間環境でありながら、あくまで社会の枠の外に居場所を持ち、パワーゲームに博奕を打つ。勝利も敗退もあるけれど、決して挫けない野良犬のようなたくましさ。また、こうした内容を淡々と綴ってゆくいつもの梁石日節。本当に粗削りだけど、不思議な魅力でいっぱいだ。この作家の原石と呼べるような作品であると思う。

(2001.07.07)
最終更新:2007年07月09日 01:05