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地図のない街





題名:地図のない街
作者:風間一輝
発行:ハヤカワ・ミステリワールド 1992.3.31 初版
価格:\1,400(本体\1,369)




 さてぼくは風間一輝は初体験で有名な『男たちは北へ』も読んでいないので、なんの先入観もなしにこの小説を読んだのであるが、実は五条氏こと吉野仁氏とは、正反対の感想を持ったのである。おお、こんな魅力的な作家がいたのか、というのが正直なところ。何故ってとても面白かった。これはミステリであるよりは人情小説ドヤ街篇であるので、なんの先入観もなかったぼくが既に得をしていたかもしれないのだが。

 中島らも 『今夜すべてのバーで』に続くアル中断酒小説でもあるのだが、異なるのは病院生活ではなく、山谷の生活の中で、それも三人で断酒を誓い合い、それも一週間という計画ですべてが始まる、といった話である。同時進行するのが連続不審行き倒れ事件で、このふたつが互いに絡み合いながら物語が進行する。これを「どちらも中途半端」と取るか「ひとつの個性」と取るかは読者のスタンスの問題もあるだろうが、ぼくは共感と賛嘆の気持ちをこの本で貫けてしまったのである。

 なぜか? と一応言っておかねばなるまいね(^^;) それは偏えに主人公たちの魅力的な造形に尽きるわけです。三人が三人とも男臭くて、世俗的ではなくて、自由人で、やさしくて、弱くて、闘ってて……ぼくは、好きなのね、こういういい男たちが悶々とするような小説は 。結構感動しちゃったのです。

 それに山谷自体の描写というのが、これまで大して知らなかった街だけあって興味深かった。これだけでも面白くて、ぼくには読む価値ありだった。学生時代に台東区で小学校の夜警のバイトをしていたぼくはよく浮浪者を追い払ったりしてたし、山谷に接する学校などではそれなりの緊張感も持っていた。南千住の名画座に入ると、自由人たちの煙草の煙が濛々としてたし、その深い霧の彼方のスクリーンに浮かぶ「日本の首領・野望篇」なんて映画は、未だにぼくの偏屈な青春への情趣をくすぐったりするのである。

 宇都宮も実は仕事先で毎週のように訪れる街だから、小説中に出てくる小さい路地の一本一本までぼくは知ってる。確かに本筋とは繋がりがないな、このへんは。断酒の目的となる女性もイマイチ繋がりが弱い気もする。でも、なんか私小説的な強引さも感じたので、ぼくはこういう種類の作品にかぎっては堅いことなしで、許してしまおう、という気分になったのである。

 だから風間一輝を読んでない方は試しに読んでみてください。面白くてさっと読めちまいますから。

(1992.04.12)