新・探偵物語





題名:新・探偵物語
作者:小鷹信光
発行:幻冬舎 2000.10.10 初版
価格:\1,600




 初回の探偵物語はTVと同じ設定である雑踏の都会がその活動の拠点であり、街自体が舞台であった。二作目では北海道の十勝の大平原が広大な舞台となっていた。そして21年ぶりの新作になる本書では、作品の上を同じだけの時間が経過していて、舞台も北米大陸に移っていた。

 LAからラスベガス、アリゾナ、デス・バレイへと虚無とともに工藤俊作が旅を重ねる。ハードボイルドの国を舞台にしての、和製ハードボイルド。小鷹信光の傑作がまた一つ。ぼくの揺らぎのない昨年トップ作品である。

 アメリカを舞台にしているからには、当然のことながら銃撃戦もカーチェイスもありである。どこかクラムリーの『明日なき二人』(小鷹訳です!)あたりを髣髴とさせる。人生とか時間とかいったそうした巨大なものを引きずっている主人公の姿がどことなくクラムリィしているのだ。

 登場人物のみんなの個性が光っているというのも、ハードボイルドの絶対条件。歳を重ねて枯れつつある工藤探偵でありながら、確実に復活してゆく旅の始終。ゆっくりとだが息を吹き返してゆくあの探偵の姿がたまらない。

 俳優・松田優作はもういないが、もし生きていたらどのように工藤探偵の中年ぶりを演じていただろうか。そんなことも想像するだに楽しみが深まってゆく。時間というものはかように重いものなのだ。

(2001.03.18)
最終更新:2007年07月08日 18:38