触発






題名:触発
作者:今野敏
発行:中央公論社 1996.9.25 初版
価格:\1,800

 今野敏という人の作品を多く読んだわけではないのだが、ぼくの好みの傾向としてはアクションものにある。『蓬莱』『イコン』『リオ』というむしろ話題性の強いものに関しては、ぼくは作者の好奇心そのものに敬服はするけれど、エンターテインメントとして味わう作品という意味では、今ひとつ面白くない。面白くないなんていう表現をほとんど使うことのないぼくが何故ここであえてそう言うのか? それは、この『触発』みたいな小説のほうが、ぼくには断然面白いからである。

 自分の趣味からして、その辺にある日常的な殺人ものなどはあまり好きではない。海外の小説にしても、地味な犯罪よりは、すっごく非日常的なド派手で狂気に満ちた犯罪の方にこそ読む価値を認めてしまったりする。普通の殺人よりは異常なサイコパスの殺人の方が嬉しい。銃で一発だけ撃たれて殺されるのだったら、バラバラに切り刻まれる死体の方が読んでて楽しい(ううむ、異常ではないよな>自分)。

 そういう意味では、ぼくは今野敏さんのアクション小説はどろどろしたサイコものではないけれど、それなりに非日常的冒険的世界のできごとを描いてくれるので、さらっと楽しくて好きである。軽いと言えば軽いのだけれど、それは『蓬莱』に始まる一連のハードカバーだってそうでしょう。それなら主題ももっと軽めの追跡、逃走、格闘、対決、こういうものでぼくはいいのです。少なくともぼくが今野敏という作家に求めているものはその辺だ。あとはこのエンターテインメント性を磨いて、大薮春彦、生島治郎といった大御所を越えて欲しいのである。

 さて本書『触発』は、爆弾魔対爆発物のエキスパートの対決。『テロリストのパラソル』よりワンランク若い世代による爆発事件は、オウムの地下鉄サリン事件を思わせながら、さらにむごたらしいものであり、ノンストップ・サスペンスのプロットが全編読者を引っ張り続ける。ラストはまるで『ジャガーノート』。こういう面白い作品を今野敏さんは書けるのだ。ぼくはそのことを知っているから求めている。無理矢理娯楽と時代とを結び付けなくてもぼくは面白ければ一向にかまわない。逆に言えば面白いならどんな壮大な難しいテーマで小説を組み立てても、ぜひ読みたいということなのである。

 そういう期待度は非常に高い作家だとぼくは常々思っている。アクションは読んで面白い、だけどだから何なの? という問いが聞こえてきそうな気がする。そういうもののわかったような批評に動じず、あくまで面白さを今後とも追求していって欲しい作家、それが今野敏である。ちなみにぼくが好きなエルロイ、コナリー、R・トーマスなどの優れた娯楽作家たちから得た最大のものは、誰が何と言おうと「面白さ」以外の何物でもないことを付け加えておきます。

(1996.11.07)