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題名:イコン
作者:今野敏
発行:講談社 1995.10.10 初版
定価:¥1,800




 著者の自信作という感じがするのだけど、『蓬莱』ほどの興味をとうとう最後まで持てずに読了してしまったのは、ブーム本の匂いがぷんぷんするせいかもしれない。確かにネットワーカーやっていてミステリーが好きでそこそこ楽しい筋書きで……本当に乗りのいい本だし、一気読みはしました。

 しかしそれでもやはり昨今の情報小説ともいうべき部分の匂いは、ぼくはどうも好きになることができない。海外で言えばマイクル・クライトンの『ライジング・サン』や『ディスクロージャー』などはまさにこの手のもので、そこそこ面白いけど情報小説と言えばそれまでのもの。

 逆に同じパソコン世界、オタク世代との断絶を感じさせていながら、これを主題にしない、あくまでも主筋は主人公の葛藤だと言わんばかりなのが、『検屍官』ケイ・シリーズであったりもする。あの作者P・コーンウェルは、検屍局でコンピュータをいじっていたプロであるにも関わらずああいういい小説を作ってしまう。

 ぼくは今野敏という作家にはいつも、次作への期待と、あともう一歩推し進めて欲しいという最後の不足感を味わわされているような気がする。とんでもなく駄目な作家なら読みもしないのだが、この人の感性とか誠実さとか何よりも物語の面白さという基本を抑えている人だけに、本当にこういう情報的な部分を、情報社会内部の冒険というだけに終らずに、もう少しおとなの味つけを期待してしまうのである。

 おとなの味つけなんて、すごく抽象的な言い草であることを理解していますが、そうとしか言い様のないものをいつも感じてしまうのである。次作に期待だ!

(1996.05.25)
最終更新:2007年07月08日 18:10