事件屋



題名:事件屋
作者:今野敏
発行:光風社ノベルス 1994.12.15 初版
価格:\780(本体\757)

 ぼくはもともと現実味のない法螺話はあまり好きなほうじゃないのだけど、この本のように法螺話の形態を取りながらもとことん私小説しているような、悪く言えば楽屋落ちなんだろうけど、作者の私語たっぷりの囁き話みたいな作品はけっこう好きであるのかもしれない。ストーリーの奇天烈さは、まあ置いといても、読んでいて楽しいのは、主人公が今野敏自身であること。作家としてのジレンマやキャリア、嘆きや夢がこういう形で表現されるのも悪くないのではないでしょうか。

 妙に気取った形のハードボイルド系の作品を四冊読んできたためか、『蓬莱』で感じたような、楽しい夢のような話が懐かしかった。今野敏という作家を読み始めたのは『蓬莱』のせいなんだが、いわゆる通り一遍でない型破りのもののほうが、この作者の可能性を感じさせるような気がするのはどうしたわけか。

 作者が格闘技実戦者であることなどからも伺われるように、頭でっかちでないなんかエネルギッシュなパワーをどこかにいつも感じさせもする。この本は確かに軽ーい話だけど、なにかのきっかけにはなりそうな感じがするんですよねえ。

(1995.09.27)
最終更新:2007年07月08日 18:07