蓬莱





題名:蓬莱
作者:今野敏
発行:講談社 1994.7.25 初版
価格:\1,700(本体\1,650)




 遅まきながら噂の『蓬莱』。一気読みの面白さはあったけれど、ぼくには面白さの質が、作者の乾坤一擲のアイディアの方にではなく、その駆け足な謎の展開、巻き込まれの理不尽さの方にあった。 夢枕獏の『空手道 ビジネスマンクラス 練馬支部』みたいな面白さ。理不尽に力に屈した男が、そこから抵抗を開始する方の、面白さだ。

 だから主題になっている徐福伝説がよくよく調べられて書かれているのにも関わらず、、本当にこれが主題なの? というアンバランス感覚みたいなものをぼくは読後に感じてしまった。そちらが主題にしては軽すぎるテンポがクライマックスにぼくをひっぱってしまった気がする。そして軽すぎる終章であるようにも思われる。

 壮大な日本創世の謎に対峙する大河ロマンの序章……とでもいうのなら、ぼくはわかる。それはさぞかし面白そうである。荒巻義雄の『黄金シリーズ』ではないが、秦氏同盟みたいな組織、または政治的黒幕があのように、映画『ウォーゲーム』のように個人レベルでなく、また簡単に解明されたりもせず、もっとずっとずっと壮大な謎であったなら、と思うのだ。

 だってそれほどの面白い題材だったぜえ。一大冒険小説にもなったはずだ。この作者に関してはぼくはほとんど何も知らない。最後にわかったのは、なんだ、格闘技の専門家かあということ。道理でそちらの方の描写がビビッと来るわけである。

 ところでシムシティってゲームが、やってみたくなった。

(1995.01.15)
最終更新:2007年07月08日 17:56