バッドラック・ムーン





題名:バッドラック・ムーン 上/下
原題:Void Moon (2000)
作者:Michael Connelly
訳者:木村二郎
発行:講談社文庫 2001.8.15 初版
価格:上\876/下\857

 コナリーというと重い作品というイメージがまずある。物語運びが巧いのでその重さが気にならないのだが、その緻密な展開はストーリーを必ずしもスピーディには展開しない。ピンを抜いてすぐに爆発する手榴弾ではなく、長い導火線を辿った末に発火点の存在がわかるダイナマイトのような物語。

 そのイメージを初めて破壊したのがこの作品ではないだろうか? 女泥棒はキャッツアイみたいだし、カジノでの化かし合いも、復讐も、ラブ・ロマンスも、どちらかと言えば、導火線なしの派手な手投げ弾のように見える。舞台はゴージャス、色彩はカラフル。物語はシンプル。それでいて劇的で、血腥い。こんな物語もコナリーは書いてしまうのか。

 テンポはまるで、ウエストレイクのようだし、マクベインのようで、描写はリズミカルで、悪役は典型である。劇画のようにメリハリがはっきりしており、ハリウッド映画ようにとことんクラッシュしてみせる。美貌の女泥棒と、サイコな追跡者。正邪のくっきりとした、何とも楽しいアクション・ストーリー。

 この娯楽色満載の作品は、おそらく重厚このうえなかった『わが心臓の痛み』や『堕天使は地獄へ飛ぶ』など重厚緻密な作品を書き上げた後、少しリラックスした状態のなかで書き上げた、作者にとってもある意味、アメリカの重い現実から少しだけ逃れて癒しを求めたタイプの物語だったのじゃないか、とぼくは踏んでいるのだが。

(2001.11.11)
最終更新:2007年07月08日 17:09