わが心臓の痛み






題名:わが心臓の痛み
原題:Blood Work (1998)
著者:マイクル・コナリー Michael Connelly
訳者:古沢嘉通
発行:扶桑社 2000.4.30 初版
価格:\2,095

 5月の連休が明けた頃、突然ぼくは健診センターで肝機能障害を告げられ、「命に関わる障害の可能性」と促され、病院に通い検査を重ね始めた。そんな中で肉体の「試練」そのものを軸にしながらの犯罪捜査を描いたこの小説は、ぼくの肉体の不調を訴える信号に少なからず同期しながら、実にリアルに一つの優れた人間ドラマとして、その当時不安に苛まれていたぼく自身を少なからず勇気づけ、鼓舞したものだった。ぼくにとっては忘れられい作品である。

 それにしてもデリケートなプロットである。心臓移植を受けた直後の元FBI捜査官が挑む犯罪。それは自分の移植された心臓の持ち主であった女性がコンビニ強盗によって射殺されたという事件である。しかし捜査を進めるにつれ、事件の意外な真相が玉ねぎの皮をむくように明らかになってゆく。真実と思われたものがさらに分厚い皮膜に被われていて、読者は主人公とともにさらに深い真実への旅を余儀なくされる。真実は次第に主人公の心臓を抉り始め、ぼくらも胸を掻き毟られるようなサスペンスの重みに圧倒されそうになる。

 今年のベストは『ハンニバル』と決めていたのだが、おそらくこの作品が来るだろう。ぼくの中では既にそう傾いているし、何よりコナリーのベスト、会心の一撃と言って過言ではない作品であると思う。

(2000.11.04)
最終更新:2007年07月08日 17:08