クライム・ウェイヴ






題名 クライム・ウェイヴ
原題 White Jazz (1999)
著者 ジェイムズ・エルロイ James Ellroy
訳者 田村義進
発行 文藝春秋 2000.7.20 初版
価格 \2,476

  『わが母なる暗黒』までは、エルロイという作家も、彼の抱える過去も特に読者の前には直接的には出て来ることがなかった。しかし、『クライム・ウェイヴ』という中短編小説、エッセイ、ノンフィクションというこのごった煮本のなかでは、まさに物語世界とエルロイの現実とがシームレスに共存しているかに見える。

 『わが母なる暗黒』から繋がる部分、あるいはそこへ向かうルート。破壊力満点の中編が読み応え抜群。少なくとも映画ではダニー・デビートの演じていた『ハッシュハッシュ』紙の編集長は脇役であった。LA四部作においても。だが、ここでは二作の中短編において主役を取っている。ぼくの思いもかけない形で。編集長と言えども死闘を演じる。それがエルロイの世界なのだなと痛烈にぶちのめされる。

 あくまでバイオレンス。あくまでサバイバル。それがエルロイ世界の亡者たちの道なのだということが、中短編でもよくよく思い知らされるのだ。

 ポスト『わが母なる暗黒』のエルロイの姿も興味深く、彼の探索はまだ続いていること。その後の報告をも彼はやめないであろうこと。多くのエルロイ情報が満載。ゴミのようなコラムまでをも集めまくったとにかくエルロイのごった煮なのだ。

 エルロイのファンであれば、必読の暗黒本。

(2000.11.05)
最終更新:2007年07月08日 16:39