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ハリウッド・ノクターン





題名:ハリウッド・ノクターン
原題:Hollywood Nocturnes (1994)
著者:ジェイムズ・エルロイ James Ellroy
訳者:田村義進
発行:文藝春秋 1997.01.20 初版
価格:各\2,400(本体\2,330)

 LAシリーズは、その読者にとってはある種、終わってしまった祭り、もしくは吹き過ぎて行った狂気の疾風……であると思う。多くの血が流れ、多くの真実が闇の中に埋もれて行ったが、未だに熱っぽさの残る物語として、ぼくたちの生涯にどこかで疼き続けてゆくように思えてならない。

 LAシリーズのあの悪夢と情念の日々。死んでいった多くの取り憑かれた男たち。彼らが作者の分身であることは、この作者の本を読めば読むほど確信に近くなってゆく。異常な過去に彩られた狂気の半生の後に開始された作家活動と、その天才ともいうべき情念から溢れ出す、奔放な言葉たち。エルロイは唯一無二の作家なのだ、とつくづく知らされる。ドストエフスキィの再来……。

 この『ハリウッド・ノクターン』という中・短編集は、通り過ぎていった男たち(ブランチャード、ミークス、ロウ、コーエンその他多くの悪党たち)のアルバム集みたいな一冊である。あのメイン・ストーリーの裏を彩るエピソード。しかしそのどれもが熱情に溢れた馬力のある悪の物語であることは、メイン・シリーズと同等である。

 エルロイにしては珍しく、巻頭で前書きにようなものを書いている。それも、ある程度饒舌に。過去……それも50年代のロスという地点にこだわってしまうこと、母が殺害されたことにより自分の人生が極度に決定づけられたことなど。また、多くの歴史上の事件が彼の小説の虚構の中に綾なされているのもなるほどと振り返らせられるような、エルロイ独自の小説観。

 めくるめく50年代LAの悪の狂想曲。エルロイをここに来てまた再発見できるような、これはまさに天才の作品集である。

(1997.02.02)