アメリカン・デス・トリップ





題名 アメリカン・デス・トリップ 上/下
原題 The Cold Six Thousand (2001)
著者 ジェイムズ・エルロイ James Ellroy
訳者 田村義進
発行 文藝春秋 2001.9.15 初版
価格 各\2,381

 『アメリカン・タブロイド』から6年。USAアンダーワールド三部作の第二作が漸く到着した。待ちに待たれたエルロイ、久々の長編。

 JFKという名の祝祭に終わった前作。ダラスの熱い一日。葬られた者。悪と秘密を抱えたまま通り過ぎて行く者たちの夏は一度幕を閉じた。

 そして本作。ダラスへ向かう者の登場。若造。父の差し金。クランとマフィアとヴェガスの物語が火を噴き始める。殺人と買収と裏切りの時代が、ぎりぎりと軋み始める。前作以上の密度で。重さで。風圧で。

 ジョン・Fからロバートへ。マーティン・ルーサー・キングの秘密と暗殺。ジョン・エドガー・フーバー。そして3匹のダーティな主役たちはヴェトナムへ。サイゴンを描くエルロイ。CIAとヴェトコンと麻薬とヴェガスと。アメリカの黒い時間が燻る60年代。

 正義をかざしつつ非情な顔役へと変化してゆく一人。暗黒街の掃除人でありながら一人の女への思いにだけは聖域を見出す矛盾だらけの一人。ボビーとフーバーの対立構造の中で窒息しそうな一人。恐怖と欲望のサバイバル。エルロイ的地平。

 かつてエルロイはサイコ・ミステリー作家であったことがある。初期のエルロイは血に餓えていたように見える。母の殺人を追うエルロイは非常にパーソナルな人間であるように思える。『ブラック・ダリア』でエルロイは変貌を遂げたように見える。アメリカの歴史学を根底から切り裂きたがっている気がする。暗黒の歴史に取り憑かれているようでもある。

 スケールは広がる。時計は回転を続ける。『ホワイトジャズ』で決着を付けた50年代の上に重なる暗黒のもう一層。今日あるアメリカは、一体どこから来たのか。テロ、爆撃、戦争。それらは時間軸のケーブルを手繰り寄せてみると、一体どこに繋がっているのか。ニクソン、ヴェトナム、クラン、ヴェガス? はたまたエルロイの母の死か? 切断されたブラック・ダリアの白い肉塊なのか? 遠くまでゆき続けるエルロイの物語。

 拡散し続け、どう纏まるのか見えないラスト。生き残るのは誰で、誰が死んでゆくのか? 誰に殺られるのか? 誰が銃殺体を組織し、誰がアメリカをどっちの方角に引きずって歩くのか?

 巨大なスケールで、重層構造になったノワール巨編。このエルロイを誰ひとり超えることなどできやしないだろう。

(2001.11.11)