自殺の丘



題名 自殺の丘
原題 Suicide Hill (1986)
著者 ジェイムズ・エルロイ James Ellroy
訳者 小林宏明
発行 扶桑社ミステリー 1990.12.19 1刷
価格 \620(本体\602)

 三部作の最終章ということで明日なきロイドの失踪ぶりの結末に興味を覚えつつきっと一作目から一気にここまで読者はひっぱられてきてしまうに違いない。

 前作で謹慎処分になっているロイドは、この作品では序盤なかなか姿を現さず、さして興味の湧かない犯罪者がさしたる動機もなくただ成り行きで銀行強盗に突き進んで行く経緯ばかりが描かれて行くのに、少し面食らう。

 そういう当たり前の犯罪者が、エルロイの世界、エルロイ特有の暗黒のロスという都市では、いかに狂気と血にまみれてゆくのか、そしてそうした地獄と日常との接点の身近さを感じさせる恐怖に満ちた物語は、この作品でクライマックスを迎えようとしてゆく。

 そしてこの狂気の犯罪者がふとしたことで呼び起こしてしまうホプキンズの復活、といったところからは、もう読者はこの小説の疾走感に身をゆだねるしかあるまい。

 まだまだ見えぬ地獄の底の蓋が全開となり、一作目のエピソードが思わぬところで糸を引いてホプキンズを絡め取ろうとする。警察機構そのものの迷宮はLA四部作と酷似しており、これらが犯罪の側の迷宮と接触し、われらが主人公ロイドは、ついには平安を求めようとする。こんな地獄から生き残りを賭けて脱出ができるのか? そんな疑問にどこまで答えらえるのか、それがこの作品の後半の見所であるかもしれない。

 もちろん破壊的な作者が描く破滅的な犯罪と環境である。幼児期からの主人公の孤独が、こうした世界で必死に戦い、勝ち取ったものはいったい何だったのだろうか? 一筋縄で行かないラストシーンが読者を待っている。

(1996.04.20)