夜 訪ねてきた女



題名:夜 訪ねてきた女
原題:NIGHT SECRETS (1990)
作者:THOMAS H. COOK
訳者:染田屋茂
発行:文春文庫 1993.7.10 初版
価格:\600(本体\583)

 この本も当然前作と繋がっている。ファルークはファルークであり、クレモンズは相変わらず誠意に溢れている。事務所前の階段に陣取る老女に対するクレモンズの態度を見るだけで、ぼくはこの私立探偵が好きになれる。

 昼に、正式な依頼で人妻の素行調査を行ない、残った夜の時間を、ジプシー女性殺人事件の捜査に当てる。不眠症で眠れない中年男が二人、ニューヨークの昼と夜をクルージングする物語だ。

 この手の構成は『87分署』を想起させ、独特の読書リズムというようなものを生み出してくれるのだが、もちろん手が合わないという人もいると思う。

 いずれにせよ、ぼくは一作目から続けて読んでみて、この作品のラストまでが、三部構成のきっちりとした長編小説であるのだと認識させられた。そこにちゃんと起承転結があるのにまず驚かされるし、クレモンズの魂の放浪は常に救済を求めてのことだったのだ、とわかってくる。また、これまでの彼のすべての時間を通して、クレモンズの心が絶望に打ちひしがれていたのだということがわかる。 マレルの『螢』を思い出す。

 作者が必ずしも主人公と同じであるとは言えないのだが、クックがこういう人物を造形しながら、自分についての情報はほとんど明かさない作家であるということは、ぼくにはとても興味深い。

 クックは他に犯罪ノンフィクションや新作のミステリーを続々書き続けていると言う。内面に下降しがちで、あまり娯楽色は濃くない作家だが、ぼくは毎作、目頭を潤ませているから多分手が合う読者なのだろうと思う。ここのところ、とにかく 素晴らしい読書の時間をぼくは持っている。キース『24 人のビリー・ミリガン』、稲見一良『セント・メリーのリボン』に続いて、このクレモンズ三部作、ぼくには 今年半ばにおける、大きな予想外のハーヴェストであった。

(1993.07.23)