死の記憶


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題名:死の記憶
原題:Mortal Memory (1993)
作者:Thomas H. Cook
訳者:佐藤和彦
発行:文春文庫 1999.3.10 初版
価格:\714



 誰しも人生の初期段階を家族という迷宮から開始する。迷宮の形はどうあれ、それは迷宮であることに変わりはないし、家族はいつかどんな形かで解体し、多くの人間が家を後にして荒野の拡がりの方に向けて旅立ってゆく。

 多くの時間を費やした後に人生の初期段階を振り返ることは、ある意味で人間の持つ原初的な欲求であるかもしれないし、そこに待つものはかつての家族でありその行く末であるかもしれない。

 エルロイは『わが母なる暗黒』においてそのような旅を開始したし、かくいうぼくも自分の父(まだ存命ですが)の過去を求めて見つけにくい戦前の彼のいた土地を訪ねたりもした。でもそういうことには大きなきっかけがいるし、それはぼくにしてもエルロイにしても希求の多寡は違えど、ある意味で同じことであった。

 そうした人間の過去、家族への希求、判明していない多くの謎の解明といった点に焦点を当てているのが、最近のトマス・H・クックの作品であり、どれもが時間という曖昧なフィルターの向こうに去りゆく事件であり、クックの持ち味である叙情味が存分に発揮するスタイルとなって作品化している。

 この作品もご多分に洩れず相当な評価を受けているようであるし、この後にもまだ同種の作品が出版を待たれているようである。ある意味で独特のクック的世界が完成されている印象があり、多くの読者が彼の作品世界に吸い寄せられている動きも感じられる。

 父という命題に迫り、事件をあらわにしてゆく中で、最終的に父と言う闇を覗きこむかっこうになるこの作品は、それ自体がとても奥行き深く思われる。こんな感想を書くのになぜ半年も費やしたのか、今もって自分にはわからない。

(1999.09.12)