夜の記憶




題名 夜の記憶
原題 Instruments of Night(1998)
著者 トマス・H・クック Thomas H. Cook
訳者 村松 潔
発行 文春文庫 2000.5.10 初版
価格 \619



 邦題から類推されるのは、あれ「記憶」三部作じゃなかったの? というまず最初の疑問。ところが本書を読んだ限り、あれはあれでやはり三部作だったのだと思う。こちらは、あのシリーズと同じトーンとはやはり言い切れず、ある意味でかなりの変奏曲なのである。シリーズそのものに流れていた事件の叙情性、時間の向こうへの取り戻すことのできない罪悪感、何よりも過去への痛みといったところよりも、むしろこの作品では事件に巻き込まれた犠牲者たちが、その巻き込まれた犠牲者の側のトラウマと戦う姿に焦点を当てている。

 主人公は作家である。彼の書く作品、言わば作中作は主人公のトラウマを投影する形で使われている。暗く、残酷で、救いのない境遇から逃げるために死を求める主人公。思えばクック作品にはぴったりと思われる重いキャラクターなのだけれど、二十三重のストーリー展開を軸にした、少々本格向けの雰囲気ではある。

 なので、好きになれるか嫌いになれるかのラインぎりぎりにあるような作風である。ラストは感動的って思う人もいるのかもしれない。ちなみに、ぼくにとってはクックがこの作風でゆくのだとしたら、少しつらい気がしている。

(2000.11.04)
最終更新:2007年06月28日 22:51