殺しのリスト




題名:殺しのリスト
原題:Hit List (2000)
作者:Lawrence Block
訳者:田口俊樹
発行:二見文庫 2002.6.25 初版
価格:\952



 ブロックは長編と短篇の書き方がまるで違う。新潮文庫から短編集が三作出されたときに、短篇作家ブロックとしての味わいを発見しぼくは彼の稀有なもう一つの才能に喝采を送ったものだ。シリアスな長編作家とばかり思っていたブロックは一方で非常に軽妙で悪戯好きな短篇の名手でもあったのだから。

 その短篇を連作の形で積み重ねた本が同じ二見文庫から出た『殺し屋』であった。とっても普通の人であるケラーがたまたま職業的に殺し屋であるばかりに、普通ではない旅程を辿る、いわゆる奇妙な味わいの連作である。殺し屋の非情さをどこか懐深くに隠し持っていながら、その短篇ゆえの軽妙な文体と、ケラーの日常性へのこだわりがアンバランスで可笑しい。

 だからこのシリーズが長編として登場したと知って、ぼくのなかでは相当に好奇心が疼いたものだ。こういう短篇的世界を長編に纏めるという作業は一体どういうものになるのだろうか? 

 結果として長編としてのシリアスな重みは持たないまま、短篇のエピソード的積み重ねによって、キルトのように縫い合わせたものがこの作品なのかな。大がかりな起承転結はなく、むしろ悠久な時間の流れと(大袈裟だけど)、雄大なアメリカ各地の風土を渡り歩くケラーの足取りとその落ち着き感(あるいはその欠如)とが、感じられるゆったりとした小説に仕上がっているのだ。

 どうでもいい日常瑣末へのこだわり。仕事に出かけてもできたらそこでゆっくりと過ごし、その土地の美味しい料理を味わい、趣味の切手のために専門店を探す。それらの落ち着きが土台にあって、それらがどこかで揺らぎ始め、何かおかしいと感じ始める。何となく感じられる謀略の存在。ケラー自身を狙う銃口の臭い。

 まったくほとんどがどうでもいいことの描写の積み重ねでできているのに、とことん読ませてしまうブロックの手法。スカダーその他のシリーズでは味わえないもう一人のブロックのまたも新たな才能がきらめく作品である。翻訳の田口氏にも、いつもながらスタンディング・オベイションを送りたいくらいだ。

(2002/08/18)