ヘビィ・ゲージ



作者:花村萬月
発行:毎日新聞社 1993.4.20 初版
価格:\1,400(本体\1,359)

 ぼくはギター弾きだから、すぐにこの小説のタイトルの意味がぴんと来た。ギター弦の最も堅いタイプで、ぼくも大学時代にはSヤイリのギターにヘビィ・ゲージを張っていた。アメリカン・トラッディッショナル・フォークのクラブに所属している頃、たまにコンパウンド・ゲージやライト・ゲージ(より柔らかいタイプの弦です)を張ってみると、先輩に怒鳴られた。千葉の海に合宿に行って、海水に全く触れることもなく朝から晩まで、体育会のトレーニングと寸分変わらぬ練習をこなしていた頃のことだ。

 とにかく一日何本もギターの弦という奴は切れる。特にアコスティク・ギターは切れて当たり前。切れないのは腕が未熟だといわれても仕方がない。ヘビィ・ゲージでもよく切れるのだ。

 これはそうやってぶつ切りにされた6本のヘビィ・ゲージ。6作の短編集である。短編というのはストーリー的興味を満足させてなんかくれない。だから短編なんか読まないという感覚は自然で当然。長編の方が面白いに決まっているもの。

 でも何故か世の中には短編がある。雑誌があるからって理由からかもしれない。雑誌が長期連載作品ばかりでは、新しく客になろうという人が寄りつかなくなるものなあ。それには売れっ子作家を起用してイージーに短編でも書いてもらえば、客寄せ看板になるかもしれない。出版社はそんなことを考えて世の中の本屋を短編集でいっぱいにしているのかもしれない。まあ、だから水増しの短編群って、世の中に実に多い。

 この作品集もとりわけその例に洩れていないと思う。水増し作品が多いし、花村萬月という作家自体、こういう技工には馴れていない感じである。逢坂剛や森詠みたいな職人的な短編作家に較べると、てんで書き馴れていない。無理しないでいいよ、ってのがぼくの一言感想なのであった。

(1993/04/27)
最終更新:2006年11月23日 21:19