皆殺し




題名:皆殺し
原題:Everybody Dies (1998)
作者:Lawrence Block
訳者:田口俊樹
発行:二見書房 1999.10.25 初版
価格:\1,900




 何とも猥雑さを感じさせる非常に直裁なタイトルである。けれども、思えばスカダーのシリーズは「死」に関連したものが多かった。「弔鐘」「死にざま」「挽歌」「死」「墓場」「処刑」「死者」「墓」……こういう単語がタイトルを連ねていて、そのほとんどが原題に忠実、あるいは少しだけひねったものである。かほどにブロックはスカダーのシリーズに死の長い影を落しまくってきたのだ。

 あと一杯の酒を呑めば死ぬと言われたところからアル中人生との戦いを続けているマット・スカダーは、言わば死の隣人である。だから死についての洞察、会話、その他は今までの作品でも決して少なからず取り上げられてきたものである。しかし、にも関わらず、この本ほど死そのものに真っ向からこだわる作品はやはり今までにはなかったと言わざるを得ない。それほどこの作品は、「人間はいつかはみんな死ぬ」ということに向き合っている。

 シリーズ中屈指のアクション編であり、シリーズ中でも犠牲者の最も多い作品。それもそのはずで、これはミック・バルーをスペシャル・ゲストスターにまで招いたような作品であるからだ。「むしろこれはミックの話だ」とスカダーが作中で語り始めるように、全編まさにミックの世界なのである。

 肉屋の血まみれのエプロンをつけて、殺したライバルの首を詰めたボーリング・バッグを持ち歩きながら酒場を梯子して歩いたという伝説を持つ恐怖の男ミック。彼のアイルランド的血筋が、この本での主役と言っていい。ど肝を抜く展開に、ページを開いた瞬間からぼくは一気に巻末まで本を手放せなくなった。

 今後のスカダーのアルコールとの戦いにまで影響しそうな、非常に重要と言える事件に巻き込まれ、スカダーはいろいろなレベルでの選択、変化、決意、その他を迫られることになる。ミック・バルーもそれ以上に。ある意味でとても変化に富んだ節目の作品なのである。

 そして相変わらずのブロック的小説技法。職人芸としての会話体。作品世界にみなぎる凄味。行間を満たす気品。人間たちの心の深み。そして街の空気の汚れと夜の猥雑。安定したレベルで質を保ち続けるシリーズ中、屈指の傑作であるように思う。

(1999/11/04)