渋谷ルシファー




作者:花村萬月
発行:集英社 1991.6.25 初版
価格:\1,400(本体1,359)

 ロックブルース・バンド、ゴッドブレイスのシリーズ続編とでも言うべきか。主役は渋谷道玄坂のブルースバー・ルシファー。視点は変えているものの、ゴッド・ブレイスの後日談ともいうべきエピソードの集積である。『小説すばる』一年間4回に分けて書かれた連作短編集だが、あまり途切れ目を感じさせないから、一冊の長編として読んでも構わない。とにかくこれもまたよかった。

 伝説のギタリストという呼称が相応しいようなルシファーのマスターが、時には主役になり、時には狂言回しにもなってゆく。彼のハードな過去が第一話の主題で、早速殺人の話、ヤクザの出現と、話はただの都会小説に収まらず、ハードボイルド的方向を向いてゆく。

 第二話からはいよいよゴッドブレイスとの関わりが始まるので、やはりできることならこの本も、こだわるタイプの読者には『ゴッドブレイス物語』からお先にオススメしておきたい。で、出来はというと前作よりは本書の方がよほどこなれていて、優れものであるようにぼくは思っている。

 そういえば、この作家ってけっこう店など実名を使ってしまうみたいで(ルシファーのことではないよ)、なかなかそういう部分も興味深かったりする。あ、これは『眠り猫』の中華街のシーンであった。よく行く店の名が出ていたのだった(^^;) ま、とにかくおやっと思うような場所は、たまにあるのだ。

 これは優れた音楽小説でもある。ジャズ・ミュージシャンの端くれでもあり、音楽に生き音楽に死んだ弟に、ぜひ読ませてやりたかった類いの作品なのだが、あいにく生前には世に出ていなかったのだな。これはこれなりに最高級の賛辞とも言える、ぼくの感慨なのである。

(1992/02/04)
最終更新:2006年11月23日 21:17