過去からの弔鐘



題名:過去からの弔鐘
原題:THE SINS OF THE FATHERS
作者:LAWRENCE BLOCK
訳者:田口俊樹
発行:二見文庫 1987.5.20 初版 1987.12.30 再版
価格:\410(本体\398)

 また新たなシリーズにとりかかろうということで、アル中探偵マット・スカダー・シリーズのこれは第一作。多くの人にとってもそうであろうが、シリーズ好きのぼくにとっては、第一作というのは多分に重要だ。第一作の失敗は、シリーズにとっては致命的なものにさえなってしまうと思っている。もちろん作品のそれぞれはシリーズとして独立したそれであるけれども、何といっても、今後の長いシリーズを支えてゆく主人公や脇役たちを舞台袖から初めて登場させるという大きな作業を見事にこなしてくれなくては話にならない。ぼくはだからシリーズはできる限り一作目から読み始めるようにしている。といってもそれはここ数年のことなんだけど。チャンドラーやスピレインは手に入り次第どんどん読んでしまったので、いまさらながら悔しい思いもしているのだ。

 で、本書の探偵マット・スカダー。第一印象は、予想していたよりずっと「アル中」のイメージが希薄であるということだった。だってハードボイルドの探偵は始終バーに出入りしているし、始終酒を勧められてはそれを断ったり、ありがたく頂戴したりしているわけだ。そしてどの探偵もあんまり酔いに身を任せてしまうことはない。酔い潰れるときは、探偵の落ち度で大切な人間が死んでしまったときとか、身分違いの女に惚れてしまったりしたときだ。そういう意味ではスカダーはこのカテゴリーにぴったり収まるけれども、「アル中」という病名をわざわざ冠するほど、酒を象徴的には飲んでいない気がした。

 むしろ感心したのは薄い信仰心を胸に協会を訪れ、報酬の一割を寄付してゆく意味づけ難い習慣の方であった。そして跳弾で少女を誤って殺し警察を辞めたという過去の傷跡。妻子もその時に捨てているようだが、離婚の直接的なわけに関してはほとんど説明されてない。警官としてはわりと優秀だったようで、元の同僚にその気になればいつでも戻れるんだぞと言われるほど。まあ、どんなによれよれのコートを引きずっていようと、年季が入って疲れた足取りであろうと、スカダーは現代のヒーローの運命を引きずっているように見えるのだ。要するにその動作も言葉もかっこいい。

 この印象は間違ったものだろうか?

 そして評価したかったのはこの作品が事件の謎の追跡に終始していること。妙に探偵側の個人的なストーリーを深追いせずに、きちっと事件そのものをある程度魅力的なものに描いていること。犯人は初期段階で想像がついたし、トリックなんてものはないのだが、事件が事件として人間に深く関わっていることが嬉しかった。第一ページを開いたが最後、一気に読ませる面白さがあったということである。端的に言ってこのシリーズは全部楽しめそうなのだ。

(1991/10/12)