盗作





題名:盗作 上/下
作者:飯田譲治/梓 河人
発行:講談社 2006.02.03 初版
価格:各\1,200

 『アナン、』を絶賛した身としては、本書をこき下ろすことなどは絶対にしたくない。だが、本書は『アナン、』の持つ魅力をそのまま継承してはいないと思う。あまりの変容をもよしとする柔軟な読者にとっては、本書はそれなりにうまくできた作品であるのかもしれないのだが。

 しかし、ぼくにとって本書は『アナン、』を継承するものではなかった。むしろ、『アナン、』では「言わずもがな」だった部分を敢えて説明してしまうことにより、成り立った本書は言わば蛇足であると思う。『アナン、』が持っていた魅力の一つ、つまり、書き手が自身に課する厳しさのようなものが、本書からはごっそりと抜け落ちているように思うのだ。

 本書にも、もちろんそこそこ魅力的な人物が、例によってたっぷりと登場する。巻き込まれ型の受身な主人公を取り巻く、それらの個性は、本筋よりもよほど本書の価値を作り出してくれているように思う。何せ、その取り巻きの一人として、当のアナンだって登場してしまうくらいなのだから。

 物語のエッセンスを抜きにして、小説としての面白さ、ぐいぐいと引っ張ってゆく、抗いようのない牽引力は、本書でももちろん健在である。なのに、謎を謎として引っ張ってゆくその末に、待っている回答は、何故かことばで、この作品のような表現をもって改めて説明されずとも、前作『アナン、』において、十分にぼくらには伝わっていたものであったように思える。

 だからこそ、本書は、あまりにも結末が陳腐だった。ぼくのような読者を『アナン』から遠ざけていた、スピリチュアル・ファンタジーというお題目が、この作品では、見事に作品のコアになってしまっているところが残念なのだ。

 次には改めて再びリアルな方向、それでいて夢のある作品に、地に足の着いた作品に戻って欲しいというのがぼくの今の、読後の思いだ。

 本書も最初はリアリティに溢れていた。楽しかった。喜怒哀楽を物語の人物と共有した。それなのに、ラストの天上の楽園の如き物語は、あまりにも、われわれ庶民の側から遠ざかり過ぎたと思う。われわれのごく身近なところに物語を紡ぎ出すからこそ、この二人のコンビネーションは、いつも大人のファンタジーであり続けてきたのに、ぼくはやっぱり思えてならないのだ。

(2006/04/02)
最終更新:2007年06月28日 00:39