クリスマスに少女は還る




題名:クリスマスに少女は還る
原題:Judas Child (1998)
作者:キャロル・オコンネル Carol O'Connell
訳者:務台夏子
発行:創元推理文庫 1999.9.24 初版 2002.1.18 7刷
価格:\1,000



 噂には聞いていたが、当時あれだけ多くの場所で話題に上った作品であることが、読了したばかりの身にはしみじみとよくわかる。

 風変わりな視点の積み重ねによる奇抜な表現力。じわじわと丹念に物語の綾を編み上げてゆく独特のテンポ。確固とした地盤を既に築きあげたキャロル・オコンネル、新人時代の作品とはいえ、この時点で既に唯一独自の作風を切り拓いてみせていたことの証明が、このシリーズ外の一作だろう。

 全作取り揃えておきながら、なかなか本格的にシリーズに取り組めなかったぼくにとって(一作目からして十分に重たかったので二作目に取り掛かっていないのだ)、クリスマスにクリスマスの本を読もうという今年の試みが、たまさか引き金になった。まさしく、悔いなき時間の虜にさせられた。

 630ページの厚みをほぼ一記読みした。決して我慢強いとは言えないぼくのような持続性に欠ける人間が、物語に捕らえられた。もちろんプロセスを追わせるストーリーテリングもあるだろうが、何より、この作家の持つ、優れた人物造形に魅せられる。謎めいた人物、正義感、情念、悪意、恋心、さまざまな鎧を見せながら、その奥にある真の人物像の見えにくさ。小出しに露わにされてゆく彼ら/彼女らの過去。

 興味をぐいぐいと牽引しつつ、捕らえられた少女の脱出劇がサスペンスを盛り上げ、幼い頃にかき抱いていたあの冒険心を現在に蘇らせる。魅力的で、素晴らしい真の主人公に読者はきっと出会うだろう。

 好きにならずにはいられない、愛さずにいられない主人公を、創出できる作家が、世の中にどれだけいるだろうか? この物語の中でたっぷりと出てくる主役級の登場人物たちのそれぞれの魅力もさることながら、最後の最後まで心に突き刺さる存在感を示すこの一人によって、本書はたまらない神秘。奇跡、人間同士の連環、心の躍動をもたらしてくれるのだ。

 クリスマスを重ねるごとに、本書の読者が一人でも増えてくれることを、願う。本書はとても魅力的な自分へのクリスマス・プレゼントになるはずだから。

(2005/12/25)
最終更新:2007年06月19日 23:23