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吉祥寺幸荘物語(改題:「幸荘物語」)






作者:花村萬月
発行:角川書店 2000.11.30 初版
価格:\1,400

 デイリースポーツに連載されていたというだけあって、萬月にしては大変に軽い作品なのだが、作家志望で新人賞を目差し貧乏アパートに暮らす主人公の姿は、何となく今にも彼のデビュー作『ゴッドブレイス物語』あるいはそれに類する小説を書き出しそうな気配を秘めている。

 『ゴッドブレイス物語』は花村萬月のデビュー作であり小説すばる新人賞受賞作。そのデビュー作への回帰的なスタンスを持った作品が本書だと言えるかもしれない。

 幸荘の住人一人一人に、なぜかすべて花村萬月本人の匂いがする。私小説的でありながらも、相当にデフォルメされた若者たち。貧乏である彼らのもとに何故か美女がいっぱい登場して濡れ場だらけだっていうのも、乱闘暴力シーン、芸術談義などの萬月食材のオンパレードにしても、デイリースポーツ連載という社会の現実を思い起こさせる。

 花村萬月はある時期、なんていうことのない作品を量産していたが(『皆月』以前のことだ)、その時と同じの軽い気持ちで久々に書き流した一作なのかもしれない。でもあきらかにあの「最初に書き流していた頃」とはリズムが変っている。

 どこかで『皆月』『鬱』『ぢん・ぢん・ぢん』と書いて来た作家の、その後の小説作りに対するゆとりのようなものが感じられる。書きなぐりでは済ませられなくなった作家的こだわりが、処女作の空気を呼び戻したようにさえ思える。タイトルが「物語」なのもそういう意味かな。

 萬月史のどこかで何かのアクセントとなる一品と言えるのかもしれない。

(2001/03/22)