グッド・パンジイ




題名:グッド・パンジイ
原題:Dead And Gone (2000)
作者:アンドリュー・ヴァクス Andrew Vachss
訳者:菊地よしみ
発行:ハヤカワ文庫HM 2003.08.15 初版
価格:\1,000




 アウトロー探偵バークが珍しいことに、のっけから当局に追いつめられ、お馴染みであった隠れ家をついに捨てる。生活の糧を得るために不正に使用していたいくつかの名前をも同時に失う。年老いたナポリタンマスチフのパンジーを連れて、新しい生き場所を探すことを余儀なくされる。そして一方ではシリーズで重要と思われていた女性を、呆気なく銃撃で失う。流れ弾。あるいはそうではない何か。

 そんな追いつめられた緊迫感のなかで、あの殺し屋ウェズリーが生きているかもしれない、という噂を手に周囲はバークに詰め寄るのだが、バークは「ウェズリーは死んだ」とあらゆる方角に向かって繰り返すのみである。

 バークの頑固さと強さとが、周囲の変化、危機的緊張とどう戦って行くのか。ひさびさにアクションが多く、極めてサスペンスフルで、物語の流速がなんとも速い。ラフティングで都会という名の激流に漕ぎ出したかのような激震が、バーク・ファミリーを急激に包囲する。

 初期の頃、このシリーズではバークは100%の完璧主義で常に当局や敵の裏をかいてきたものだ。念には念を入れた凝りに凝る用心深い手段によって、パーフェクトに動くことを己に課していたと思う。いつも臆病に見えたし、すべてにおいて全く優勢に事を進めていた。

 しかし、前作あたりからバークもより手強い敵に立ち向かわねばならなくなり、かつての完全主義は鳴りを潜め、事を優勢に進める事ができなくなり、計画や判断の余裕もなくなりつつある。よりスリリングな、より謎めいた時代に対し、シリーズとしてギャップが出てくるのはある意味では定めのようなものだと思う。しかしこの緊張感。初期の頃のものには及ばないとは言え、シリーズの中弛み状態はもはやここにない。

 少しずつだけど確かに代わってきているバーク・ファミリーの今後の展開がまだまだ楽しみになる一冊。ただし、かつて馳星周がバンであった時代に言っていた「バークの魅力は彼がたまらなくへなちょこな男だってことなんだよ」という点に関しては失われつつあるかもしれない。あの綿密な周到さと用心深さは、そのへなちょこで弱虫な性格故なのだというのが馳星周の分析であった。今のバークの不完全さは、逆に闘いに身を投じる強靭さに繋がってしまうのかもしれないからだ。

(2003/09/07)