嘘の裏側




題名:嘘の裏側
原題:False Allegations (1996)
作者:Andrew Vachss
訳者:佐々田雅子
発行:早川書房 1998.8.31 初版
価格:\2,000



 最初の頃はまだしも、ヴァクスは二つの顔を使い分けていたように思う。幼児虐待専門の弁護士、とハードボイルド作家の二つの顔を。

 その境界が徐々になくなってゆくとともに、『ゼロの誘い』においては、主人公バークも彼の生い立ち----存在の底に到達する。

 その後『鷹の羽音』で『ブロッサム』『サクリファイス』の系統(探偵バークの色が濃い作品)を受け継ぎ、本書『嘘の裏側』で再度屈折を見せたことになる。

 この作品では、幼児虐待裁判のさらにディテール、裁判が抱える重要なもう一つの問題が提示される。それはもはや作家ヴァクスというよりは、弁護士の心が書かせたストーリーと言うほうが的確に感じられるかもしれない。

 実在の非営利団体であるチャイルドトラウマ・プログラムズが登場するらしく、ここへの寄付を巻末で募っているのは、もはや作家と弁護士との区別すらなくなった、幼児虐待事件と闘うヴァクスの素顔なのだと思う。

 もはやバークのシリーズは、現実と物語をシームレスで繋ぐアメリカそのもの、闘う作家ヴァクスのストレートな表現となってゆくのかもしれない。

 もともとがこうした問題を世に知らしめんために小説を書いているというヴァクス。そうした主張が前面に表明されたような作品……と言えるのかもしれない。

(1998/10/04)
最終更新:2007年06月19日 22:55