ブロッサム



題名:ブロッサム
原題:BLOSSOM (1990)
作者:ANDREW VACHSS
訳者:佐々田雅子
発行:早川書房 1992.5.31 初版
価格:\1,900(本体\1,845)

 『ミステリ・マガジン』(1992年7月号)のブック・レビューで関口苑生氏が散々にこき下ろしているのがこの作品なので、それほど望みのない作品なのかと疑心暗鬼でこの本を手に取ったのだが、なんとまあ、大変重要な、バーク・シリーズの転機になる作品じゃあございませんか?

 というのはバークがニューヨークから離れて独りでタフ・ガイみたいに事件にわりあい積極的に挑んだりするってこともあるかもしれない。お偉いさんや写真の売人を手玉に取って世のために制裁を下しながらも売り上げをちょろっとくすねてしまうバークの乾き切った明るさが、もはやベルの存在した地平からさらに遠くへと到達してしまって見えるからかもしれない。

 しかし問題はそういうことではなく、単純に今回ほのめかされることになったバークの出自である。関口氏が『ミス・マガ』誌上で、これではまるでスペンサーではないかとこき下ろしている少年への尋問シーン(救済シーンと言うべきだな)だが、ここで非常に意味ありげな、過去に触れるバークの独白が見られる。まさにシリーズのひとつのハイライト・シーンであり、すべての作品にかかる重要さを持っている。

 何故バークが執拗に幼児虐待を追っているのか、何故バークが幼児虐待の真のプロフェッショナル・カウンセラー(?)足り得たのかが、ここで言葉少なにだが確実に語られているのだ。

 シリーズはニューヨークの仲間たちから離れてインディアナへ向かったが同時にバークの中心部へと下降して来ているのだ。風の噂で、バークのシリーズは次第にバーク自身の物語へと収斂すると聴いた。『ブロッサム』は明らかにその橋渡し的な位置に立つ作品であると思う。

(1992/07/25)
最終更新:2007年06月19日 22:51