ブルー・ベル




題名:ブルー・ベル
原題:Blue Belle (1988)
著者:アンドリュー・ヴァクス Andrew Vachss
訳者:佐々田雅子
発行:早川書房 1990.5.15 初版 1990.12.15 4版
価格:\2,000(本体\1,940)



 これは既に読んだ何人かの人からいろいろ意味ありげなことを言われていて、ぼくが使った「バイオレンス」という言葉も即座に否定されてしまったんだけど、やはりこの作品はバイオレンスなしには成立してない気がした。人にあれこれ前もって言われてると当然その部分に気を取られるので、あまりいいことではないように思うが、この作品はそんな細かな批評精神を真っ向から粉砕して余りあるくらいに素晴らしい出色の作なのだ。小説にエネルギーというものが存在するとするなら、こういう作品こそそれを容易に証明し尽くしてくれる。とにかく有無を言わずにどなたにも読んで欲しい。ただそれだけが読後のぼくの願いです。

 最初この本が大手書店で見つからず、ようやくBOOKS《深夜+1》で入手したのだが、やはりヴァクスの代表作と言われるだけあって、重版の度数も多いようだ。それもそのはず、これはぎっしりと中身の詰まったヘビイ・ドリンクだった。

 バークは相変わらず、とても注意深く世界に対峙していて、とても怯え、とても生に執着している。今度の敵は凄まじい強敵で、少女殺しのスナッフ・フィルムでの商売を営む傍ら、道場破りを旨とする空手使いを抱えている。要するにバークたちとこの殺人グループとの闘争が縦軸になっているのである。ここにふとしたきっかけで関わってくるのが、ベルという女。 "BELLE" はフランス語で「美しい女」の意だが、それはここではとても宿命的な名称となっている。彼女の個性がこの作品のすべてを決めていると言っても過言ではないだろう。

 凄絶なラスト・シーン。ぼくは大好きな映画『ザ・ドライバー』や『バニシング・ポイント』を思い出した。ベルは性に飢え、愛を貪る女だが、その一方で、プロのドライバーとしても超一流の度量を誇っている。その過去はストレーガのときと同じく、ヴァクス作品の基調を成す暗闇の世界に所属している。幼時に於いて既に重い宿命を背負わされた女たちの名が、作品のタイトルに使われているというわけなのだろうか。

 怯え、武装しながら戦場に赴くバークの姿は、リアルなたくましさと冷徹さを備えていてとても魅力的だ。都会と夜とが彼の昏い感性を脅かし、そしてマッチが擦れないくらい手が震えてしまうような恐怖をも友とする。ぼくは基本的にバイオレンスを和音の低音部に構えたような作品が好きだが、それは常に暴力と恐怖とが背中合わせになっているからだ。そこにはぼくら読者を含めた大抵の男たちが一度や二度は迎える種類の、最大の張り詰めた時間が存在するし、そこで彼らはあらゆる意味で自分の真価を試されることになるからだ。そういう意味でぼくは暴力を媒介とした作品が好きだし、そうでなくとも暴力に代わるような自然の猛威とか、綱渡り的な状況空間が小説中に現出してあれば、と常に思っている。その意味でも、この作品は、ぼくにとっては素晴らしく傑作な物語世界なのである。

 さらにそんな暴力などに興味はない、という方にとっては、他の種類の和音も多く奏でられている幅広な作品であるために、愛と生命とのいっぱいつまったたまらなく劇的な物語になっていることを付け加えておきたい。

(1991/11/28)