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アイスマン




題名:アイスマン
原題:Freezer Burn (1999)
作者:ジョー・R・ランズデール Joe R. Lansdale
訳者:七搦理美子
発行:早川書房 2002.2.15 初版
価格:\1,600


 驚いた。ランズデールがこんな真っ黒な作品も書いてしまう作家だったなんて、全然知らなかった。確かにぼくは『ボトムズ』と『ダークライン』しか読んでいないので、ランズデールが本来どんな作家なのか知っているわけではないけれども。

 それにしたって『ボトムズ』と『ダークライン』には共通したリリシズムがあった。南部に育つ少年たちの目を通して見つめる大人の世界。成長をしてゆく子どもたちの無邪気な心に映る南部の自然や気候。ミステリアスなものへの尽きない好奇心。そうしたダイナミズムのなかで、恐怖や期待に満ちた事件が起きてゆく。思い出が心の中で膨らんでゆく。そうした作風のニ作に囚われると、この作家を見る目は立ちどころに曇ってしまうのだぞ、と警鐘を鳴らされたような思いがする本書『アイスマン』であった。

 母親の死体をフリーザーで固めてしまい、その死をどのように処理したらいいのか判断のつかない主人公ビルは、仲間二人を誘って自宅の向かいの花火屋台を襲撃する。いきなりの破滅的なスタートラインに始まり、仲間たちをディープサウスで失ったビルはフリークショーの一座に拾われ、奇妙な身体を持つカーニバル一座の中で新たな生活を始める。ビルの居座るトレーラーには凍りついた本物の死体、アイスマンがカーニバルの一番の人気出し物として収納さられている。

 言わば、襲撃の序章と、フリークショーの本編が鏡のように対を成す構造になっている。凍らされた死体という共通項。川に落ちる自動車という共通項。破滅する者たちと生き残る者、という共通の構図。眩暈を呼ぶ悪夢的な設定。

 だが本書を辛口に仕上げるのは、ビルではなく、胸から手が突き出しているフリークの座長でも、四つ足の人間であり、ビルに初めて心の交情をもたらしたコンラッドでもない。金と享楽を求める腐った心と美貌を合わせ持つ、絵にかいたような悪女ギジェットだ。彼女のような存在が物語を黒に変える。リドリーの『ネバダの犬たち』を思い起こさせる、吐き気を催すような悪意と、そこに立ち現われる魅惑。

 滅びゆくビルの明日なき日常のネジを巻こうとする美貌の悪女。夢魔のようなフリークショーの背景。地味ながら恐怖に満ちた、まさにランズデール・ノワールと言える。

(2004.04.25)