弱気な死人




題名:弱気な死人
原題:The Scared Stiff (2002)
作者:ドナルド・E・ウエストレイク Donald E. Westlake
訳者:越前敏弥
発行:ヴィレッジブックス 2005.7.20 初版
価格:\800



 南米の架空の国ゲレラ。夫婦で巨額の借金を抱えたバリーとローラ夫妻は、夫をゲレラで事故死に見せかけ、生命保険を得た上で、別人に成りすまして高飛びをしようという、悪辣な計画を立てる。

 ところが当然ウェストレイクの小説はそんなことをすんなり進捗させたりはしない。ドートマンダー・シリーズのように、次から次へと計画を破綻させようというスリリングな展開が主人公を襲う。妻はアメリカ本国に帰り、死んだことになっている夫のみが、南米の面倒な国で、たまらない苦労を背負うことになる。

 別の人間に成りすました故に各方面から追われることになるのだが、秘密は、親戚同族の血縁を長々と通ってどんどん拡大してゆき、バリーは命の危険にさらされる。簡単であったはずの計画がどんどん深みに入ってゆくあたりは、ノワールのタッチを思わせるが、それでいて明るく、タフで、懲りない主人公は、やはりドートマンダーの血筋を引いているみたいに見えてくる。

 主人公の打ち据えられ追い詰められて、また明るく計略をめぐらせる心理。あまりに呑気で楽観的な故に、またも地獄に落とされたときの落差。このめりはりが何ともたまらない、まさに娯楽小説の王道をゆくストーリー。全編、見知らぬ国ゲレラと、その地での風習の数々、基本的に貧困、かつクレイジーな国民性が、主人公を狂気じみた世界へ誘い込んでゆく。

 本書は発表時のペンネームがジャドスン・ジャック・カーマイクルだったそうな。いろいろな契約逃れのために別名義で発表する作家事情については、アメリカ有名作家がよく出くわす難問みたいだが、本書の興味は、これがオットー・ペンズラー・ブックスとして出されている点である。ヴィレッジブックスとしては久々の同叢書であり、ペンズラー・ファンとしては実に有難い。

(2005/08/14)