ジミー・ザ・キッド




題名:ジミー・ザ・キッド
原題:Jimmy The Kid (1974)
作者:ドナルド・E・ウエストレイク Donald E. Westlake
訳者:小菅正夫
発行:角川文庫 1977.1.30 初版 1999.5.25 改版初版
価格:\720


 毎回スラップスティックなアイディアを採用するケルプ、こいつを実行に移す隊長格のドートマンダー、チームを組む強烈な個性の脇役たち。その基本を変えないシリーズの三作目。

 例によってドートマンダーはケルプの顔も見たくないくせに、いつか実行作戦に引き込まれてゆく。今回のアイディアは、なんとリチャード・スタークの小説通りに犯罪を展開すれば、すんなり上手く行くぜというもの。犯罪内容は『誘拐』。

 いわゆる彼ら犯罪チームが参照するのは『悪党パーカー』シリーズなのだが、実際には存在しない『誘拐』という作品。メンバー全員がマニュアルのようにその本を持ち、小説中に、スターク作品の引用もたっぷり。

 ウェストレイクもスタークもそれぞれの別名義で同じ作家でなければ絶対に存在し得ないプロットであるし、それ以上に本書の価値は、ウェストレイクもスタークもそれぞれに著名な作家として功を遂げていることに拠るところが大きい。まさにこの作家でなければかけない快挙ともいうべきアイディアが、本書の核を成すわけだ。

 もちろん、こちらはスタークの作品ではないわけで、すんなり事は進行しない。その「進行しない」ことこそが本シリーズの読みどころなのであって、一体これほど巧い計画がどのように失敗するのかを、読者は最初から求め、期待しているのである。

 何よりも本書の主役は誘拐される側の少年ジミー・ザ・キッドであり、彼の個性と活躍が素晴らしい。「誘拐される少年の活躍」と書いただけで、一筋縄では行かない本書の行方がなんとなく想像されると思うが、大団円に向けて駆け足で盛り上がってゆくスリル、駆け引きや突破ミッションなど、読みどころは少なくない。

 すきっとカタルシスを覚えるのは読者であり、ドートマンダーでない点は、いつも通りのシリーズ真骨頂なのである。

(2005/07/10)