毒猿 新宿鮫II





題名:毒猿 新宿鮫II
作者:大沢在昌
発行:光文社カッパ・ノベルス 1991.8.31 初版
定価:\740(本体\718)




 前作同様劇画タッチだなと思いながら読んでしまった。前作の面白かった部分は、警察機構の裏話が末尾にずらっと並んだ参考文献(ぼくは一冊も読んでない)から引きずり出されていて、なるほど結構リアルに書いているんだろうな、これはと思わせる記述が沢山あったこと。そして普通は警察小説でもなかなか使われない用語が、応酬されるのも、新宿警察らしくてまあまあだと思った。そして桃井といううだつが上がらないがなかなかいい味を出している上司と弾道鑑識の薮と鮫島・・このトリオがなかなか迫害されていてよかったような気がする。あらすじははっきり言ってほとんど覚えていないのだけど。

 そして本作は台湾社会のあれこれを調べているらしくて、けっこうそのへんの解説部分が面白い。ただ全体に焦点が絞り切れていないというか、解説部分がいかにも解説部分となっていて、あんまり小説的に巧いとは思えないのだが、この辺はどうしようもないのだろうか。ストーリーもいい、キャラクターもいいのに、なにがいけないのか。やはり思い当たるのは文体だよな。文体ってこの手のバイオレンス小説のカラーをもっと品よく大人っぽくできるし、そうして欲しいのがぼくの趣味なのだけど、大沢在昌ってあまりそういうところを狙っていないみたいなのだ。ストーリーとキャラクター造形で手いっぱいという印象。

 別にけなしているのでもない。大変面白かった。でも趣味かというとぼくの趣味とも言い切れなかった。同じバイオレンスでもミッキー・スピレーンの方が好きだし、同じ警察小説でも87分署のほうがぼくにとっては遥かに素晴らしい。「新宿鮫シリーズ」は国産小説では将来性を買える財産ではあろうけれども、あまり誉めそやしちゃいけないような気がしてならない。面白ければなんでもいい、というけど、ぼくはやはりそればかりでもないんだな、という点に改めて気がつかされました。要は筆致の問題。タッチ。カラー。ムード。ノンストップで読めなくても、傑作はあるのだ。

 多くの人が書いているけれど、23歳のロック・シンガーときちんとした恋愛関係を持つ刑事なんて、こればかりはひどい設定だと思う。ソンドラ・ロックにいかれてシリーズ第4作でついに犯人を逃がしてやったダーティ・ハリーみたいだと思う。ハードなストーリー、ハードなキャラクターをロマンとして求めるぼくのようなファンをがっかりさせるだけ。こういう設定に出会うと、改めて原りょうの方が全然気に入っている自分に気づくのでありました。同じ新宿の街なのに。

 ま、でも趣味を言い出すと切りがない。この本は劇画調に読めるので、面白いことは面白い。ラストは傑作B級アクション映画の乗りです。あとね、無理してヒーローを新宿鮫にするこたあなかったなじゃないかなと思いました。郭という台湾から来た刑事だけでクライマックス行けたと思いません?

(1991.09.16)
最終更新:2007年06月17日 23:18