新宿鮫 無間人形





題名:新宿鮫 無間人形
作者:大沢在昌
発行:読売新聞社 1993.10.29 初版
価格:\1,500(1,456)




 この『新宿鮫』シリーズはずっと外れがなしの面白さで来ているわけだが、本書も一気読み確実の疾走快感をたっぷりと孕んだ面白本である。ぼくはこの作品をシリーズベストにあげてもいいと思った。

 全作『屍蘭』から時間を経ずして、連載していたので少し急ぎ過ぎで期待薄かな、と危惧していたのが、結果としてまるで無用であった。捜査小説の面白さを今度はかなり前面に出しており、鮫島や晶の描き方などでも、これまでになく淡白で、あまり自讃していない分好感が持てた。今回の晶は、音楽についての意識が語られているだけに、花村萬月作品の『ゴッドブレイス』に通じるものがあってなかなかであると思う。無論音楽へののめりこみ度は萬月ほどには感じないんだが、それはしかたないことだであろうなあ。

 今回は、ドラッグ戦争のようなものが鮫の戦場になっているのだが、相変わらず官僚の間の闘いもすさまじく、日本の警察小説としての現実的なる部分はきっちり説明されている。麻薬取引という語り尽くされた題材で、どうなのかなと思われた 前半も、次々と重奏されてゆく新たなキャラクターたちによって、混迷度を深め、サスペンスが盛り上がってゆく。

 今回はこれまでのシリーズを振り返るシーンも多く用意されていて、鮫シリーズのファンにはなかなか読み応え満載だろう。ラストは第一作以来、久々にシンプルで体当たり的な活劇になっていて、ぼくとしてはこういうダーティ・ハリーを彷彿 とさせるドン・シーゲル調正統派エンディングというのは好きである。こういう舞台は、徐々に上空へ遠ざかってゆくカメラからフェイドさせてゆくのが似つかわしい。願わくば、エンドテーマがロックからジャズへの変貌 -- それが駄目ならせめてブルースにでも -- を遂げてくれれば、もう少しぼくのお好みの色合いになるのだが……。

 ひさびさに日本作品に満足した。

(1993.10.31)