炎蛹 新宿鮫V





題名:炎蛹 新宿鮫V
作者:大沢在昌
発行:光文社カッパノベルズ 1995.10.15 初版 1995.10.225 2刷
価格:\840

 無間人形から4年なんて経っていないよね。執筆者にとってはそうなのかもしれないけど……。

 さて大方の人が言っているとおり、前作『無間人形』がシリーズ中でも群を抜く面白さだったし、ましてや自信作なのかハードカバー版で最初に読者の喉を潤してくれたりしていたせいか、本作はあれれ、またもノベルズに戻したの? ずいぶんとまたこのご時勢に謙虚な……と思ったりしました。

 さて内容はと言えば、まあ新宿鮫シリーズもここまで読者にとって馴れてしまうと面白さもこんなものでしょう。植物防疫官という設定の独自さがなければ凡百の警察小説、ってところかもしれない。ハードカバーではちと評価が厳しくなりそうだけど、まあノベルズならニコニコ目くじら立てずに楽しく読もうという感じのシリーズでしょう。

 今でこそ87分署シリーズなどは名シリーズの呼び声も高いけれど、あれは多くの凡作の中に『キングの身代金』を初めとしたいくつかのアメリカ娯楽小説界の歴史に印を残したようないい作品が混じっているからこそいいシリーズなのであって、その中のキャラクターたちがさまざまな個人的な問題を抱えつつ少しずつながら前に進んでいるから、読者はシリーズを読み続けるのであると思う。

 そういう意味では、今回の「次作に続く」かのような形態はそれなりに長期シリーズ化を本気で考え始めた作者のいわゆる路程票であるのかもしれない。これからは凡百の作品も出るかもしれないけど、地道に書き続けるよ、との作者のメッセージであるのかもしれないのだ。

 そうしてみるとなんとなくまとまりに欠けるモジュラー小説的形態、なんとなく摸索してるよなとの感じがあるけど、これまでの一冊につき一つの手中したスリル&サスペンスがなくなってしまった感じは否めないと思う。害虫の駆除の時間的リミットはあるけれど、なんかこう緊迫したものが感じられないのは、なぜか? ちと鮫島から遠くにあり過ぎるからじゃないのかなあ、この手のリミットでは……。やはり晶が殺されるかも知れない、なんていうサスペンスには勝てやしないな、というのがこの小説の限界でもあるでしょう。 

 次作、期待しています。

(1995.11.13)
最終更新:2007年06月17日 23:10