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新宿鮫 VII 灰夜





題名:新宿鮫 VII 灰夜
作者:大沢在昌
発行:光文社カッパノベルス 2001.2.25 初版
価格:\838




 主人公鮫島がキャリア組を追われ新宿署に配置替えになった理由は、この鮫シリーズでは未だにきちんと語られていない。その当時、唐突な鮫島への圧力の直接的な原因となった同期キャリア組・宮本の自殺と真相を綴った手紙があるという。鮫島はその手紙を握ったまま新宿署へ飛ばされた。内容は、未だに誰にも明かされていない。もちろん読者にも。

 その宮本の七回忌の案内を受け、郷里の土地へ鮫島が訪れるところから本書はスタートする。いよいよ鮫島のキャリア失格のコアに迫るのかと思わせぶりなスタート地点。舞台は九州のどこかであるらしい。あちらにあまり土地鑑のないぼくには少し想像できない。いつもは新宿とその周辺ということでかなり地名をあらわにしてきたシリーズなのに本書では地名を伏せて書いている点が少しアンバランスな感じである。

 と同時に本書は少しも鮫シリーズらしくない。私用の旅先で事件に巻き込まれてしまったために、捜査権限がない。シリーズ脇役たちが登場しない。何という設定だろうか。また、シリーズにつきものの準備取材や参考文献の数々は、どうも今回は見送られたようでもある。

 そして何よりも、最初に匂わせた鮫島の追われた因縁話とはどんどんメインストーリーが離れて行ってしまい、結局は何も明かされないまま、ローカルな事件の方に物語がスライドして行ってそのまま収束してしまう物足りなさ。

 北朝鮮工作員の暴力に晒される過激なシーンが、もしかしたらこの作品のハイライト部分なのかもしれないけれど、何だかやはりただの通過点、番外編のようにどうでもいい一冊だったのかな。そう思わざるを得ないところが、成功して来たシリーズだけにやはり残念。一方で『風化水脈』のような分厚いストーリーの鮫シリーズ(時系列的に本書の後に位置するらしい)がきちんと存在するだけに、こうした軽めの一冊は、この作家にとって一体何なのだろうか、と不思議な気持ちが残ってしまうのだ。

(2001.04.28)