作者:花村萬月
発行:双葉社 1997.7.10 初版
価格:本体\2,300

 日本の小説は饒舌ではない。だからこうして何もかも禁忌無しに語りたがるのだろうか? 奇をてらうという言葉があるけれど、最近の花村萬月ほど奇をてらう作家はいないだろうとも思う。以上小説とも言えるほどにプロット破壊で無軌道な小説ぶりだ。

 作者は言いたいことをずいぶん言っているのかもしれないけれど、こういう小説が面白く楽しいというようには、ぼくは思えないから、もうそこで作者からの疎外を感じてしまう。この疎外が作者の狙いであることを感じつつ、決別することしかできない世界と小説とが、この本の中にある。

 エログロを繰り返し語り嫌悪感を読者の胸に掻き立てることによって作者は読者を文字どおり「奴隷化」したり文字の「暴力」で嬲りたいのかもしれない。いろいろなことをいろいろに語れる本であることは間違いない。

 この作者、文体を売り物にしているのだと思う。それほどに文章が天才的に巧いと思う。手を替え品を替え、文章の達人であることを証明している。しかしもはやどんな手法によってもぼくのほうは、あたらしみを感じなくなってしまった。反小説であるようなものを楽しめる季節が、ぼくの中で過ぎ去り、花村萬月という作家の存在が過ぎ去っていったことを切なく感じる。

 文章が好きだからぼくはこれからも花村作品を読むだろうけれど、満足の行く作品に出会うことがまずないことは、もはや確信している。もしかしたらそれが作者の一番の狙いなのかもしれないけれども。

(1997/08/31)
最終更新:2006年11月23日 20:43