心では重すぎる







題名:心では重すぎる
作者:大沢在昌
発行:文藝春秋 2001.11.30 初版
価格:\2,000

 変なタイトルだとつくづく思う。

 佐久間公のシリーズについては、ぼくは『雪蛍』しか読んだことがないけれども、新宿鮫のシリーズよりはずっと心に残りいい作品だったと思っている。一人称の探偵ものと言えば、やはりハードボイルド作家にぜひ挑戦して欲しい直球ストレート勝負であり、そしてなおかつそうしたスタイルで投げ込んだ力一杯の作品はぜひとも彼の代表作であって欲しい。

 そうした一人称によるごまかしのできない小説が書けない作家は、ある意味ハードボイルド作家を名乗らないでいただきたいくらいにまでぼくは考えている。

 大沢在昌は『雪蛍』と本書において既に完全にそのハードルを飛び越えているとぼくは思う。少なくともぼくの読んだ限りでは、この二冊は他の作品より抜け出ている。他の作品はどうであれ、この二作はぜひ大沢嫌いの人にも読んでいただきたく思う。

 現代の若者の心の屈折を、薬物依存者のための相互矯正施設「セイル・オフ」を軸にして、渋谷の現在(いま)に展開させ、探偵の心の旅を交えつつ、強引に多くを巻き込んでゆく調査活動を丹念に描く本書。

 傷つく若い魂たちと、しのぎを削る組織の暗闘。インタビュー小説という側面は一人称探偵小説にもつきものであるが、現代日本の風俗インタビュー小説と限定して見たときには、どこか花村萬月の『ぢん・ぢん・ぢん』を思い出させられる。読んでいるうちに現代日本の病弊を読み解く鍵がこの本のどこかに潜んでいるように、ぼくには思えてきてならなかった。

(2001.03.18)
最終更新:2007年06月17日 22:52